始まり05
「おんしゃあ、強奪までされちょるんか。人気物じゃのう」
「本当だよ。そんなことをする伊達ってやばいな。私もとんでもなく格好良い刀だと思ったけどさ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
陸奥守が坂本龍馬の刀だというのなら燭台切は誰の刀なのだと聞いて、驚きの答えに戸惑う。
だって、織田信長から豊臣秀吉、伊達政宗、水戸なんとか、と色々な武将の元を渡り歩いているときた。伊達政宗の名前を聞いた時にはつい燭台切の眼帯を見てしまった。
雑談の中には、刀剣男士はかつての主の影響を受けていることがあるという話もあった。伊達は病気? で眼帯をしていたけれど、燭台切の眼帯の下はどうなっているのだろう。
考えつつ、共に手入れ場やら馬小屋やらの建物を見て回る。
刀装製作所なんていうのもあった。刀剣男士の霊力と審神者の霊力を用いて喚び出した精霊を宝玉に宿らせ兵とする、それを行なう場所だとか。そんなことも出来るのか、刀剣男士というやつは、と感嘆する。
それと政府に依頼すれば凡ゆる物資が送られてくるのだとは聞いたが、食の面では畑も完備されているらしい。
実体がある以上刀剣男士も食事を望むことが多く、それに必要な食材の量を補助するためだとかで。畑に植えたものは通常より速く成長するという呪までかかっているらしい。これも似たようなゲームがあったな。……とはいえ野菜はご勘弁を。だからと言って肉の脂やモツもあまり好きではないし、果物も好かないし、魚卵も苦手だ。
「……そういえば、ご飯どうしよう」
気付いた途端に顔が引きつる。私はとても作れない。台所にはアナログだけではなくデジタルの調理道具も用意されているらしいが、私の料理スキルなど学校の家庭科の授業程度だ。
台所に料理担当の式神が居るとも書いていなかった。衣食住が最初から1つ欠けてしまうというのか。
「僕が作ろうか?」
「えっ、燭台切って料理出来るの!?」
思わず見上げる。隣の彼は、うん、と頷いた。
なんだこの男は。凄いな。
喚ばれた時点で現代知識が与えられるというけれど、料理まで出来るのか。
まさか陸奥守まで、と思って彼を見ると、わしには無理じゃ、と首を振られる。個人差もあるのか。
もしかすると前の主のうちの誰かが料理好きで、影響を受けているのかもしれない。刀剣男士、奥が深い。
彼に偏食家であることを言い出すほどの度胸は持っておらず、それを告げぬまま燭台切に料理をお願いすると、夕餉は任せてね、と言われた。
そうか、もうそんな時間か。時計が手近に無いから今が何時か分からないけれど、計算するなら午後の3、4時ぐらいだろうか。
ここは異空間であるゆえに時間の流れは本来自由自在なのを、生活しやすいよう元居た世界と同じ速さにしているという。全く、ここはなんでもありらしい。
「では、私はこれで」
全ての設備を見て回り屋敷に着くと、こんのすけは何処かへ行ってしまった。
語弊がある。
屋敷に着いたあと、早速出陣しましょう、と言われたのだが、こんな時間に、こんなに歩いたあとで、こんな人数で出来るものか、それに彼らを送り出した後私も通信機越しに指しなければならないのだろう、まだ兵法についての知識が曖昧なのに出来るものか、と一蹴したら消えてしまった。
燭台切と陸奥守が苦笑いしていて、後者には、おんし、あいとにゃ辛辣じゃ、と言われてしまった。自覚はあるし、半ば意図してやっているようなところはあるので気にしない。
燭台切は、
「庭にある荷物を運び込もうか。食材もあの中なんだろう?」
「ん、うん。その、ありがとう。ありがとう、申し訳ない。助かる」
「そんなに固くならなくても良いんだよ」
この優しさである。
出会って早々荷物運びなんてさせてしまうのは申し訳ないのだけれど、笑って許してくれた。
2人を連れて庭へ降り、ダンボールに書かれた文字を見てこれは私の部屋に運ぶもの、これは台所に、と分けていく。
すると、刀剣男士用衣類と書かれたダンボールに燭台切と陸奥守の目がいった。
「わしらの服もあるっちゅうんか!」
心なしか2人の目が輝いている気がする。
政府からの説明を思い出して言葉にした。その中に入っているのは和服とカタログで、カタログを見て欲しい服を選び政府に注文し、物資が来るまでの間はその和服で過ごすとか。
言われた時はふうん、で済ませていたけれど、確かに私服に当たるものは彼らにも必要だと、実際に姿を見た今なら分かる。
甲冑を外せば着物な陸奥守はまだしも、スーツを着ている燭台切は窮屈だろうから。
格好良い服が良いなあ、とか、未来の服ながかー! とか声を上げる2人がやたらと可愛らしい。口許が緩んだ。