09

 燭台切は、兄さんのようだと思うのだ。彼の苦笑いが頭によぎっても、そうとしか言えなかった。
 理由といえば、やはり1番にはあの面倒見の良さが挙げられる。よくもまあ私にあそこまで付き合ってくれるものだ。もし彼が刀剣男士ではなく現世に暮らす人間だったとしたら、沢山の女の子達を勘違いさせ、彼女らから好かれたりしたのだろう。
 彼もきっと、多くの女の子の中で誰か素敵な人──美人で可愛くて気立ての良い子とか──を見つけて、恋人になっていた。
 そう考えるとなんだか面白くないので、燭台切が本当に兄だったのなら、私はブラコンという称号を授けられていたのやも知れない。


「あーあ、負けちゃった。いち兄つよーい」
「ははは。さあ、次は平野だったな」

 縁側は、粟田口兄弟に占拠されていた。彼らは一様に小さな机を囲み、覗き込んでいる。机を挟むようにして座っているのは、朗らかに笑う一期と唇を尖らせる乱。周りの弟たちは自分のことのように悔しがったり難しい顔をしたりしていた。

「感想としてはどんな感じ?」
「はい、とても楽しいです」

 その輪へ混ざるように覗き込んでみれば、前田がいつもの丁寧さで返してくれる。凛々しい表情を浮かべているなかで、目だけは言った言葉どおりの色にきらきらしていた。
 他の面子の様子も見る限り好評で、良かったなあ、そう思いながら、彼らが囲むオセロの盤を見下ろす。
 先日、碁に似た遊びがあるのだとルールを教え、幾セットか購入したのだった。

「主様に角を取った方が良いって教えてもらったのに、なかなか取れないんです」
「あの、皆、いち兄に勝ててないんです」

 言ったのは秋田と五虎退で、心なしかしょんぼりしている。短刀たちは代わり番こに一期と対戦していたようだったし、乱と同じように負かされたあとなのだろう。話からすると前田と薬研もか。それで、残りは平野と厚。試合の行方を見守ることにする。

「では、次は僕ですね」

 名乗り上げて進み出た平野を、一期は目で追った。平野を応援する声が湧く。私も軽く、負かしてしまえ、とか言ってみたりしてみた。
 とはいえ、

「……負けました」

 ──結果は惜敗だったのだけれども。
 朗らかに笑う一期と肩を落とす平野の対比は、先程見た光景とよく似ている。
 次は俺だな! 最後の厚が声を上げた。平野と場所を交代する。そのすれ違いざまに応援の言葉を貰って、厚の戦意に満ちた面持ちに照れが混ざった。

「兄弟かあ」
「羨ましい?」

 呟くと、隣の乱が得意気な表情で問いかけてくる。首肯すれば、乱はぱちくりと目を瞬かせたあと、可笑しそうに笑い声を零した。私はそんなに面白いことを言っただろうか。

「前に、燭台切は兄さんみたいだって言ってたもんね」
「うん」
「燭台切が、兄さん。ふふっ」

 首をひねる。乱の笑みが何に向けられているものなのか分からない。燭台切の面倒見の良さを兄と例えるのは、それほど変ではないと思う。
 一期だって、面倒見の良いお兄さんタイプだろうに。
 ……そういえば、弟同士で一期を取り合いになったりはしないのだろうか。先程だって仲良く順番を決めて対戦していたみたいだし。
 私なら、もし兄の燭台切が他の女の子を優先した時、──いや、彼らにとってそう感じることは然程ないだろう。恋人と兄弟とでは、条件は全く違う。最初の仮定が間違ったのだ、私と燭台切に他のきょうだいが居る場合の想定をしなければならなかった。だのに私は、なぜ真っ先に恋人の方を浮かべたのだ。
 ──恋人が出来たら、ゆくゆくはその人と暮らすことになって、家族から離れてしまうから、だな。

「あー! 負けちまった!」

 原因が見つかったところで、厚の悔しげな叫び声が聞こえた。考え込んでいるうちに勝負が終わってしまったらしい。すっかり見逃してしまった。盤の上には、黒の石の数がかなり多くなっている。黒は白を侵略しているように、じわじわと囲い込むように、盤の上に並んでいた。

「なあ、大将もどうだ?」
「へ、私?」

 まさか私に矛先が向くだなんて。声の主である薬研に目を向ける。親指で一期の向かいの席を指し示された。
 他の短刀たちも、主様頑張ってください、とか、主君のご武運をお祈り致します、とか言い出している。
 本気か。私も私で、勝てる気はしないのだけれど。

「……よし、ここは任せて先に行け」
「あっ、それ大将が言うなって言ってた言葉だ」

 反応したのは厚だった。他の皆は、言ってはいけない言葉なのですか、と首を傾げたので、死亡フラグについて説明して、他の例も挙げておく。皆、真剣な面持ちで聞いていた。
 まあ、確かにもうすぐ5-4に挑む予定だし、ジンクスとはいえ不安要素を消しておくには越したことはないだろう。他の皆にも伝えなければ、と至極真面目な反応も当然といえば当然か。
 彼らを扱っていたような戦国武将は、験担ぎに念を入れるものだったはずだから。皆が決意を固めたらしいあたりで、一期に呼ばれた。皆の間を掻き分けて、向かいの席に座る。
 さて、どうしたものか。死亡フラグを回収する気しかしない。

「頑張ってください!」

 背中に声を浴びながら、一期と先攻後攻を決めるじゃんけんをする。皆随分と元気だから、私は兄弟ではないのに、よく兄を取られたと思わないものだ、と感嘆した。
 良い子達だなあ。
 私には、きっと無理だ。

一緒にいたいだけですよ、他に理由がありますか

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