彼らはどんなものなのか01

 私が、相手によってあからさまに対応を変える人間であるという自覚はちゃんとある。
 審神者になったあの日、すぐ傍に居た燭台切と陸奥守は無論これをよく知っているだろう。なんせ、この本丸で唯一嫌いな相手であるこんのすけとの会話を、彼らの目の前で行なったのだから。
 けれど、一応サポート役を任せられているこんのすけとの会話があれっきりになるわけがない。普段は自室にあたる空間で眠っているというあいつは、必要な時に呼べばすぐに来る。
 それから、政府からの連絡がある時にも姿を見せたりして。今も、食事中の広間に現れやがりなさった。
 それが、今回の経緯だ。
 こんのすけが来た理由と言えば、今月の戦績についての書状を渡しに来たという簡単なもの。その程度のことで食事を邪魔されたのが腹立たしくて──だって、ちょうど燭台切が私のリクエストで作ってくれた伊達巻を味わっている最中だったのに、会話するため早々に飲み込まなければならなかったのだ──、相当邪険にあしらった。
 最近来た刀剣たちは、それを見てびっくりしたらしい。
 私も、そりゃあ驚くだろうな、とも思う。
 優しくしてくれる相手、すなわち刀剣たちはすごく好きだし。つまり、普段は好きな相手に対する対応しか見せていないことになるわけで。

「もしかして、こんのすけのこと嫌い?」

 直球に聞いてきたのは鯰尾だった。
 ああ、うん。とだけ返す。こんのすけについて話すことさえどうにも嫌で、乱雑な返事になった。
 ふと目が合った鳴狐の視線が地味に痛くて、申し訳なくなる。別に狐が嫌いなわけじゃない、とも言ってみれば、

「ならばどうしてこんのすけ殿をお嫌いになるのですか!」

 独特の甲高い声で、鳴狐のお供が叫んだ。どことなく悲痛で、申し訳なさが割り増しになる。同族意識のようなものがあるのだろうなあ。
 どうしたものか、ここは真面目に答えておくべきなのか、と思う。そして考えて、逃げることにした。

「折角燭台切が作ってくれたご飯が不味くなるよ。やめよう」
「じゃあ食べ終わったあとに聞きます!
 食休みも兼ねてその話をしてもらっても良いですか?」
「えっ」

 鯰尾に思わぬ提案をされて硬直する。それを聞いた皆は、じゃあそうしよう、と同意しだした。
 同意者の数を知ろうと周りを見渡す。鳴狐、薬研、長谷部、五虎退、陸奥守。って、今居る刀剣のほとんどじゃないか。
 残りは1人だけだ、とその彼を見る。彼こと燭台切は鯰尾の方へ視線を遣って、口を開いた。

「僕も聞きたいから、後片付けのあとじゃ駄目かな?」
「あ、ならその方が良いかな。主、どうですか?」

 どうですかって。これ、私にはほぼ拒否権が無いのでは。
 駄目なんですか? と首を傾げる鯰尾のきょとんとした顔が、私には悪魔の笑みに見える。なんで、皆そんなことを知りたがるんだ。湧き上がった疑問を読み取ったかのように、彼らは口々に言った。

「僕が喚ばれた時にはもう既に仲が悪そうだったよね。本丸に憑く精霊なんだから、僕らと同じように主である君に害は為せないはずなのに。何が原因なのか気になるな」
「もし大将になんかしたってんなら、俺たちも黙っちゃいられねえ」
「主に仇なす者は、全て手討ちにしましょう」
「それに俺、何をしたら主に怒られるのか、参考にしたいですし!」
「あの、喧嘩は、だめです……」
「狐に優しく!」
「そういうことじゃき、教えてくれんかのう?」

 まったくもって四面楚歌! 気遣ってくれているらしい燭台切と薬研と長谷部にはありがとうと言うべきだ。鯰尾はノーコメント。五虎退と鳴狐のお供はごめん、こんのすけとは仲良くなれそうにない。陸奥守も恐らく燭台切と薬研と長谷部側な気がするんだけれど、あんまりにこにこされると言いにくい。
 いや、正直、気遣われれば気遣われるほど、躊躇いを覚える。
 理由の半分は、君たちに関することだから。
 項垂れるついでに、わかったよ、と溜息交じりで吐き出した。


***


「──はい、主! 教えてください!」
「あー……、うん」

 諦めるしかないか。
 何から話すかはとりあえず考えておいたから、予定通りに行こう。
 審神者となってから少しは経ったけれど、彼ら大勢の視線を一度に受けるのにはまだ慣れない。出来るだけ目を意識しないようにしながら、話し出す。
 思い返すのは、初めてここに来た時のことだ。

「新人審神者のためのマニュアルがあってさ」

 今も何度も読み返している、分厚い本だ。
 ここへ来てすぐにも目を通した。そして、審神者の基本的な仕事が表記されたページの一番下に、小さな注意書きがあるのを見つけたのである。
 曰く、「屋敷精霊の説明で実践練習を受けられます」
 そして、そのページには出陣と手入れの仕方も書かれていた。察して、頭を抱えたものだ。
 右も左も分からないうちから、ヒトの身を得たばかりかつ出会ったばかりの刀剣男士を出陣させて、わざと怪我をさせて、手入れをしよう、という流れだろう、と。
 なんてことをさせるんだと思った。
 そんな無責任なことをして、責任を背負わせるつもりだったのだ、あいつは。いや、あいつと政府は、か。
 説明の内容は政府による強制ではなく、こんのすけ自らの考えだと言っていた。
 こんのすけの自主的な好意を政府が受けたのか、政府に説明をしろと言われてこんのすけが内容を考えたものなのかは分からない。でも、やっていることは同じだ。
 それと、もうひとつ、あとで言ってるのを聞いたんだけど。続けるために言ったあと、一度息を吸って、吐いた。

「あいつ、刀剣男士を『体』で数えるんだぞ。実践練習の件といい、皆を物扱いしてるってことじゃないか」

 しん、と場が静まり返る。異変に焦って、皆の方を見た。各々目を瞬かせていたり、苦笑いしていたり。
 ……予想していた反応だけれど、実際にやられてみればかなり不安になる。
 それでも、私がおかしなことを言っているだなんて、おかしいのは私だなんて、絶対に認めない。認めるものか。
 俯いて拳を握る。引き下がれない。自棄になりながら口に出す。

「付喪神だろう。魂があるんだろう。感情も意思もあるんだろう。
 確かに最初こそ、初っ端から責任を取りたくなかったから、あの狐の言うことを拒絶しただけだよ。
 でも、もうそれだけじゃない。私、皆のことが好きだ。
 皆が、モノとして、刀として、そう在りたいのなら。それを尊重する。戦いが本分だと言うのなら、積極的に戦場にだって出そう。
 でも、物として、駒としては扱えない。ただ消費するだけの、代わりの居るただの物として使うことなんか、私には出来ない」

 モノ扱いと物扱いは違うのだと、そう思うのだ。もし彼らがヒトではないと主張するなら、私はせめて、物ではなくモノとして扱いたい。
 本当は、モノ扱いという言い方も相応しくないかも知れない。彼らをヒトと同じように扱っているからこそ、その意思を尊重しているわけだから。
 でも、そういう理屈はともかく、私にとって彼らは唯一無二。オルタナティヴなど存在しない。
 私は、欲張りだから。

「刀なんだから物として扱えって思うかもしれない。それでも無理だ。そんなこと出来ない。
 もしも嫌だって言うのなら、私は」
「そこまでだ、大将」

 薬研の声。静かな、低い響きに肩が跳ねた。
 顔を上げて彼を見れば、眉根が寄せられている。
 こちらに向けるのは、怒りに満ちた目。
 頭の中が、真っ白になった。
 その目は、駄目だ。怖い。さっと俯く。
 耳に届いたのは溜め息で、それが意味するのは、きっと。分かっている。
 視界が滲んだ。でも拭えば動作で涙がバレてしまう。収まってくれと祈る。

「勘違いすんじゃねえぞ」

 呆れと怒りの綯い交ぜになった声色。
 ああ、だから、話したくなかったんだ。そのくせ完全に拒否しなかった私も馬鹿だったけれど。楽観視していた。ううん、本当は。彼らに受け入れて欲しかったんだろうな。とんだ大馬鹿者だと反吐が出る。
 ゆらゆら揺れて焦り出す。
 まずい。そろそろ涙が落ちそうで、

「勘違いすんなって、今言ったろ。
 俺たちに不満なんざねえんだぜ、大将」

 ──薬研は、今、なんと?
 凍りついていた思考が、途端にすうっと回り始めた。目の奥の熱が引いていく。
 もう一度薬研を見る。浮かべているのは、苦笑いのような、いや、拗ねているような。薬研もそんな顔をするのか。

「……ねえ、薬研。マジで?」
「ああ、大マジだぜ」
「皆は?」

 声が少し震えた。それにも構わず聞けば、力強く頷かれる。
 相変わらず怒っているように見える面々も居るけれど、笑っている刀剣男士も居た。
 その答えが、嬉しい。私でも、彼らの主として存在して良いと言われているように思えてしまう。
 何よりも、皆がここに居てくれるというのが幸せで。
 滲んでいただけだったはずの涙がぽろりと落ちて、慌てて袖で拭った。

「……ありがとう」

 皆に向けて頭を下げる。そんなことをしなくていい、という声が後頭部に降ってきたけれど、そう簡単にやめる気にはなれない。
 だって、皆、優しすぎる。
 ……そうしていたら頭を上げるタイミングを見失って、痺れを切らした薬研に力づくで起き上がらせられたり、なんかした。

それでも私にはできません、そんなことはできません。

title by お題bot 150612