「正直に言え。
お前は名前をどう思っているのだ、政宗」
先に口火を切ったのは兼続だった。銃口を突きつけられ政宗は、画面越しにそれを払いのける。椅子の背もたれがギシッと鳴った。しかめっ面同士で睨み合いながら、溜息を吐きたい気持ちになる。
そうしないのは、ひとえに兼続の問いの意図が分かるからだ。戦国の世での長い付き合いで得た、喜び難い成果によるものだ。
「兼続。貴様は人間間の友好には必ず下心が介す、と主張するタイプだったか」
「まさか!」
兼続が憤慨する。これも予想していた反応で、政宗は今度こそ溜息を吐いた。
そうなのだ。直江兼続というのは、そういう男なのだ。
義と愛を信じ、「良く」はないが「善く」はある、愚盲な男。
そんな兼続だから、持ち前の強引さで突然スカイプを繋げてきた理由など、分かりきってしまった。
どうして自分の周りには、世話の焼けるやつがこうも多いのか。
そう考える己の心のどこかに煩わしさとは違う感情が存在していることから、政宗は目を背けた。腹立たしげに、学習机から身を離す。
「貴様も散々聞いてきたであろう。
わしと名前は兄貴分と妹分、擬似的なきょうだい関係。それだけじゃ」
「政宗」
「兼続が危惧しているような情はまったく介入しておらぬわ。
それともなんじゃ、貴様は自らの家族に劣情を催したことがあるのか?」
「何を言うか山犬! そのようなことが有るわけなかろう!」
兼続は怒りをぶつける。
政宗は不義の者ではあれど、下郎な話をする器ではない。
──と、思っているのであろう。
政務ではとびきりの手腕を発揮するのに、分かりやすい時はとことん分かりやすい。
そんな呆れとちょっとした心配の念(なぞあるか馬鹿め!)を抑え込んで、政宗は態度を変える。
自らも怒りを見せた。
「先に辱めたのは貴様であろう。今言ったのと同じことを、貴様は口にしたのだからな」
「ぐ……」
兼続が言葉に詰まる。してやられた、という悔しさが、その表情から見て取れた。そんなものを見せられると、政宗も少々気まずさを覚える。
兼続の方も、本意でこのようなことを問いかけたわけではないのだ。犬猿の仲と言えど、彼は政宗を信じている。間男と疑ってなどいない。
要するに、兼続が知りたかったのは。
「自分が、政宗から名前を奪ったのではないか」と、いうことだった。
無論、そうだったとしても、身を引くつもりはない。しかし、正面から向き合い、ぶつかり合い、決着をつけることこそが、正当な行いだと思ったのだ。
その思惑全てを汲み取った、彼と同じく「良く」はないが「善く」はある男、政宗は、その善さを口にする。
「まあ、貴様の危惧も分からなくはない。惚れた者のすぐ近くに別の人間がおることは、いつの時代でも小火の原因になりがちじゃ」
小火で済まないこともあるが。
フォローを入れられた兼続の眉間に、先程とは違う悔しさが刻まれる。しかし気は落ち着いたようだった。
それを見計らって、政宗は言ってやる。
「先も言った通り、わしと名前の間にはきょうだいとしての情しかない。
……わしは、妹が幸せになればそれで良いだけよ」
その気遣いに、滲んだ色。
兼続は、確かにそれを見て、目を瞠いた。
ひとつ瞬きをすると、政宗に真っ直ぐ対峙する。
「それならば、安心して良いぞ。
私は、いくらでも名前のことを泣かせてやろう」
「──ふん。もし『絶対に泣かせぬ』とでも言ったなら、力尽くでも別れさせておったわ」
「はは、そのような拷問、名前に強いるものか」
笑い飛ばす兼続に、恩を仇で返されたような気分になった。政宗は不機嫌そうに口元を歪め、兼続の目を見やる。
白く、なのに熱を持って、きらめいていた。
それを見ていると余計に腹が立ってきて、政宗はパソコンのマウスに手をかける。画面の向こうでは、兼続が同じ動作をしていた。
「では、政宗。そろそろお開きとしよう」
「突然かけてきてよく言うわ。ようやっと貴様の相手を終えられると思うとせいせいするがな」
心の底から言い捨てて、二、三の言葉の後に通話を切る。スカイプをオフラインにした後、政宗は独特な白い画面を見つめた。
その目を伏せる。
──妹のように、思っていた。
──妹の幸せを、願っていた。
────妹を、兄として、幸せにしてやりたかった。
それを、兼続は。
「……まこと、気に入らん奴よ」
椅子の背にもたれかかる。
閉じた瞼の裏には、見たこともない、雫の落ちる様が描かれていた。
title by リラと満月 171006