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魔神柱は、何度見ても強大な存在だと思わざるを得ない。
あらゆる意味で圧倒的な質量。息が詰まるほどの圧迫感。踏ん張った足が崩れることはなかったけれど、揺れる船の甲板に立っているせいか踏み心地は悪い。
それに、今回の魔神柱の発生方法は、今までとは印象が違っていた。
リリィと呼ばれる特殊な姿での召喚で、若々しいコルキスの王女メディア。
それでも、なるほど、彼女は「魔女」に違いない。
自分の望みのためにはどんな手段も追求できる、一途さと純粋さ。
あれは、「魔術師」のものだ。
「えげつねえ真似をするな、あの嬢ちゃん」
メディア・リリィの手で魔神柱へと姿を変えられたイアソン──だったモノを見ながら、ベオウルフが言った。その声色は、どこかげんなりしている。そうだろう、それが普通の反応だ。魔術師の行いは、人の道を外れることも少なくない。
私だって、そういうことを何度もしてきた。神秘の秘匿が守られる範囲で浚った人間を使い、実験することもあった。フィンの一撃に昇華することを目指して、ガンドの的にもした。ホムンクルスを使うときもあったけれど、調達する手間は人間の方がかからないのだ。
そんな彼らにも生命がある。ちゃんと知っている。だけれど私は魔術の大家の────、当主として────。
「マスター」
聞き慣れた声に呼ばれる。見れば、マシュ・キリエライトを引き連れたもうひとりのマスターと、メディア・リリィの会話が終わり、両者とも戦闘態勢に入ろうとしていた。すっと息をして、私もルーンを刻んだ石を手に握る。
ものを考えている間も、無論警戒は怠らず、彼女たちの様子はうかがっていた。思考の海に溺れてなどいない。
けれど、どうしてだろう。
ベオウルフの発した一単語。
それが、まるで、私を引き上げる腕のように思えたのは。
「……ベオウルフ。準備は出来てるよね」
「おう」
疑問に思いながらも、ベオウルフの状態を確認する。肯定が返ってきて、ふん、と鼻を鳴らした。
いくら魔神柱が厄介な存在であっても、私たちの敵ではない。
剣を構えたベオウルフの背に安全地帯を確保していると、彼は口を開いた。
「魔神柱ってのは、殴り合いが出来ねえしな。さっさと片付けるか」
「──ヘマは許さないよ」
その言葉に。ほぼ意識の外で、声帯が勝手に震えた。
「完全勝利以外認めない。私、あなたの力は信頼してるの」
ベオウルフが、目だけで振り返る。
その瞳が、めら、と燃え上がった。