060
人間夢主
=ゲーム留学生、
≠ゲーム留学生(もうひとりの留学生、その他、ご自由に)
「名前は、その、気にしてないのか?」
「ん、何のこと?」
ルークがおずおず尋ねると、名前は首を傾げた。
本を閉じて自分に向き合ってくれる名前に、あ、読み終わってから話しかけた方が良かったな、せっかく休み時間なのに、と思う。「ちょうどひと段落したから」ルークが謝る前に、名前は笑った。
「それで、何を気にしてないのかって?」
「……アスモデウスのことだよ」
答える声には、幾許かの羞恥と、それを少し上回る不満が篭っていた。
アスモデウスは、名前の恋人たる悪魔だ。
天使のルークとしては、悪魔──しかもあの七大君主の『色欲』の座についている──を人間の名前が恋人として選ぶなんて、思いも寄らなかった。その司るもののとおり、何かよくない誑かされ方をしたのでは、とも思った。
これがアスモデウスではなく、サタンなら、まだちょっぴりわかったのだ。名前から聞いた話では、chatではパリピ組なるグループに入れられているらしいが、名前は「パリピ」という言葉の似合う人間ではない。むしろインドア派で、大人しく本を読むのを好むタイプだった。だからこそ、同じ読書趣味のサタン、あるいはオタクのレヴィならまだしも、アスモデウスだなんて、うまくやっていけるのか、とはらはらしてしまう。
今日だって、そうだ。
アスモデウスはRADに登校する際、クラブあたりで交友を深めたのであろう悪魔や魔女を連れていた。そして今も、名前の傍ではなく、彼ら彼女らのところに居る。
これは、いわゆる「浮気」に入らないのだろうか。
名前は、嫉妬をしないのだろうか。
不安にならないのだろうか。
「だから、聞いたんだ」
「なるほどね。心配してくれてありがとう、ルーク」
「し、心配に決まってる! 相手は悪魔なんだぞ!」
ストレートな言葉に、頬が紅潮する。同時に、こういう風に優しい名前だから、誑かされていないか、我慢をしていないか、心配になるのだとも思う。
しかし、見上げた名前の表情からは、翳りを感じられなかった。
「嬉しいけど、大丈夫だよ。
今日の登校、アスモは私と一緒に行きたいって言ったんだ。でも、アスモが友達に誘われてたから。
私にだけ構って友達付き合いを疎かにするのは良くないよ、アスモはみんなの人気者なんだし、ってむしろ置いて来たんだよ」
「置いて来たのか……」
あれ、けっこう扱いが雑なのか?
心根に非情さを持たないルークは、アスモデウスが少しかわいそうになった。対する名前は、にこにこと笑っている。
「それにね」
「それに?」
「ただいま名前~!
あれっ、ふたりで何話してるの? ぼくも混ぜてよ~!」
教室の外から駆け寄ってくるアスモデウス。
名前はルークだけに聞こえる声で言った。
「誰と仲良くしてたって、最後には私のところに帰ってくるから」
「……、さ、さすが……って言っていいのか……?」
悪戯っぽい名前の表情は、ルークの想像する悪魔と少しだけ重なった。
おかしいな、優しい人間だって、思ってたはずなんだけど……。