041
最近恋人になった名前先生は、仕事中とオフとで態度が急変する。仕事中に気を散らされても困るのだが、ここまで変わるか、と思う。
「名前先生」
「ヒョワッ!? なんですか!?」
「ひょわって……」
完全オフの昼下がり。名前先生は自身が管理する準備室にほとんど住みついているので、二人の時間を過ごすとなると、大抵そこを使うことになった。そういう日ばかりは、俺も夜型ゲーマーから脱して、昼前に起き、名前先生の元へと会いに行っている。
仕事は楽しくもあるけれど疲れるから、恋人と居るときは癒しを求めてしまう。名前先生を足の間に座らせて、持ち込んだゲームをして遊ぶのは、もういつものことになっていた。
いつものことなのだが。
「声かけただけで、反応でかすぎませんか」
「それぇ~~は~~……、そう~~……なんですけどぉ……」
「そんなにオフの俺が好きなんですね」
「スッ! すっ……、す……すきですね……」
そうですか。答えながら、腕の中でもぞつくひとを抱き締め直す。また悲鳴が上がって、笑いが溢れた。呆れと、微笑ましさ──あるいは、愛おしさとも呼ぶのかもしれない、気恥ずかしいが。
名前先生ときたら、髪型を決めて帽子もかぶったスーツ姿の俺には、「仲が良い先生」程度の雰囲気で接するのに、髪もそのままに着古したスウェット姿の俺には、こうなってしまうのだ。目を合わせるだけでひゃあひゃあ言って、落ち着きなくそわそわする。この姿で会議をしようものなら、まあ、仕事中だからと切り替えてはいるようなのだが、後から「頭がバグる!!」と叫ばれる。
そんなにオフの俺が良いものか、仕事中の俺は好きではないのか。付き合いだしてからそう問いかけたところ、答えは「オタク的に親近感が湧くビジュアルはこっち」だとか、「スーツってガードやライン引きそのものみたいなもんじゃないですか、それが……無いわけで……」だとか、「オリアス先生は自分の顔の良さをご自覚になっていない? その素材の良さを?」だとか。
スーツ姿も好きだというので、俺のお洒落と気合にかけるあらゆるものも救われてはいる。それに、こうしてあたふたする名前先生が可愛いと思うのも事実で、俺はついつい自分に意識を向けさせようとしてしまう。
ゲームはちょうど、攻略するステージを選ぶマップ画面で、手を離しても良い状況だ。元より、そのタイミングで声をかけたのだから当然なのだが。からかいたさでゲームオーバーになる気は無い。俺は悪魔だ、名前先生とゲーム、どちらもとるに決まっている。
自分が持っていたコントローラーを置いて、名前先生の両手を包み込む。こちらがびっくりするぐらい、目の前の肩が跳ねた。
「名前先生」
「はいっ、な、なんでしょうか」
「俺も名前先生が好きです」
「ヒャッ」
奇声を上げるのすら可愛い。指先まで熱い手から、そうっとコントローラーを離させる。その間も、名前先生はひょわひょわ言っていた。声のレパートリーが豊富である。
僅かに抵抗を見せるけれど、本当に嫌がっているわけではないから、結局、俺の思うようになる。名前先生の身体を横に抱くみたいにすれば、顔はほとんど向かい合わせにできた。
俺の顔を見た瞬間、名前先生が声を上げて硬直する。堕落した休日そのものの姿にそんな反応をされるのは、最初は逆に居心地が悪かったけれども、今はもう面白くて可愛くて仕方なかった。
じっと視線を合わせるだけで、名前先生の真っ赤な頬が、さらに赤みを増していく。もう茹だるのではないかという顔を、自分が引き出しているのかと思うと。
頬に手を添える。
「名前先生、いいですか」
「へっ、えっ、え、えと」
「名前先生?」
「ひ、い、いい、です……」
名前先生に出会う前の俺は、恋人に対してこんなにぐいぐいいくことになるとは、自分でも思っていなかった。別にとくべつスキンシップが好きなわけでもない、オフは一人でのんびりだらだらお菓子を食べながらゲームをしていたかったはずなのに。
──だから、責任を取ってもらいますからね。
頭で勝手に押し付けて、免罪符を得て、それから名前先生の「いいです」も言質にして。
震える唇に、自分のものを重ねた。