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※夢主≠マリィ
※個性強め原作知識有り転生夢主
※マリィがどのルートを通ったかは自由(ただし「このルートだった場合」のネタは書き手内にあるのでその設定で続きが出るかもしれないし出ないかもしれない)
=なんでも許せる人向け


「俺、名前のことが好きなんだ」

 真摯な声で告げられた言葉に、くらりと眩暈がした。その想いに心が揺さぶられたからじゃない。あんまりに現実味の薄かったせいだ。まるで、大切なものを両手に包んで見せるような、現実味のありすぎる声色が。
 前世の記憶を持っての転生などという生まれかたをしているのに、現実味がどうのなど、今更の話かもしれない。けれど、だからこそ、彼──七ツ森実──の感情は、完全に想定外のものだった。
 中学校の同級生、七ツ森実。別々の高校に進学してなお、オンラインでもオフラインでも交流のある、信頼できる友人(現状)。
 彼の名前と、「はばたき市」や「はばたき学園」、「羽ヶ崎学園」といった名称を耳にしたとき、私は、自分がただ特殊な生まれ方をしただけではなく、かつて「ゲーム」として親しんだ物語の世界で生きることになっていたのだと知った。
 私は、自由奔放だった。なにせ、二度目の生で、二度目の青春時代だ。
 歳を重ねるのは悪いものではない。前世の、大人になった自分のことも好きだった。でも、若いからこそできることもあると、口惜しさとして知っていた。お固い規則をちょっと踏み抜いては若気の至りだと大目に見てもらったり、たっぷりの生クリームや脂の多い料理をお腹いっぱい食べたり。
 ファッションも、そうだ。好きな服は好きなときに着て良いと思うけれど、そのスタイルとの特定の相乗効果をもたらしてくれる外見年齢というものは、たぶん、その相乗効果の種類それぞれに、存在している。少なくとも、私はそう考えている。
 そして、好きな服が、思った通りに嵌まるのは楽しい。10代の自分を着せ替え人形にするのは、私にとっての良い娯楽だった。
 己が生まれた世界のことに気付いても、私は、生き方を変えることはなかった。
 だから、高校に入ってから「中学時代は黒歴史」と振り返ることになる、中学生真っ最中の七ツ森に、あえて絡みに行った。
 七ツ森が、中学生時代の全てを「黒歴史」だったと考えてしまうのは、勿体無いと思った。一度人生を経験した者のおせっかいではない。ひとえに私のためだ。前世の私が、「学生時代、もっとはっちゃけておいても楽しかっただろうな」と懐かしむことがあったからだ。私は、七ツ森にそうなってほしくなかった。
 たとい、高校で「マリィ」や風間、本多と出会った彼が、「黒歴史」に覆い隠された自由な時間を取り戻せるのだとしても。少しで良いから、中学でも、何か、好い刺激を受けていてほしかった。
 そうすることで、私自身の今の生き方を、肯定されたかった、のも、あるかもしれない。私の内側に、好き勝手な生き方への罪悪感が巣食っていないとは、言い切れない。
 まあ要するに。
 私は、自分の生き方を、七ツ森という他者に、自己満足で押し付けた。そう表現するのが、端的で、的確だ。
 いつかの七ツ森に、「あの頃の俺は情けなくて、思い出すたびにヤになるケド、なんかヘンな奴が居たことは、まあ、すんなり思い出せるかもな」なんて思ってもらおうとした。思ってもらいたかった。
 ──それが、「友人」と呼び合うほどの仲になってしまうなんて、考えもしていなかった。
 なんとなく前世のアニメになぞらえて、「ななち」と呼ぶこともあるような、いわゆるウザ絡みみたいな振る舞いだったはずなのに。いつの間にか、SNSのアカウントを教え合ったり、オンラインゲームのマルチプレイで遊んだり、七ツ森の家でやっぱりゲームをしたり、高校生になってからは外出もしたりするようになった。
 私が自分のコーディネート写真をアップロードするためだけに作ったSNSアカウントと、「ナナコ」のアカウントで相互フォローになりたいと言われたときは、特にびっくりした。私のコーデ用アカは、一応、頭を隠した全身写真をネットの海に放流する以外のネットリテラシーは気にしていた。自撮りをアップロードしている時点で、リテラシーなんて今更かもしれないけれど。少なくとも、七ツ森以外に教えることすらしていなかった。
 それでも、絶対は無い。私のアカウントから芋づる式に「ナナコ」の正体がバレる可能性もあるだろうに。特定が得意な連中はネットにゴロゴロ居るのだ。そもそも「ナナコ」を私に教えることになるのに。理由が分からなかった。「俺とあんただけのヒミツにしといて」には当然頷いたものの、そのヒミツを私に教えてくれた訳を、彼は教えてくれなかった。
 とはいえ、高校生になってからは「ナナコ」の更新頻度もダダ下がりしていたし、「高校で友人ができた」旨も聞いていたし。モデル業が忙しそうだったり、高校の友人と遊んだりもしていたようで、オフで会う機会は随分少なくなっていた。
 だから、このまま。
 中学からの友人より、高校での新しい刺激を楽しむ方へ、天秤が傾いていくものだと、思っていた。

「……あの、さ。聞こえてた?」
「え、あ、うん。……ちょっと、びっくりしてて。走馬燈が」
「ソレ死ぬやつじゃん。名前に死なれたら困るんですケド……」

 こんな時に茶化すのかよ、と、レンズ越しの目が言う。今までの人生を振り返っていたのだから、走馬燈と言っても間違いではないと思うのだけれど、そういう場合では無いらしい。私も、まあ、そう思う。ほんとうにびっくりしてしまっただけで。

「……あんたはさ。俺のこと、友達だとしか思えない?」
「え、……えっと……」
 
 口籠って、視線を逸らす。自分の右手は、ベッドのシーツを掴んでいた。あっ、と、頭蓋が熱と冷たさでキンとする。七ツ森の部屋に来るときの定位置はベッドだったから、今日も変わらずここに居たけれど、降りた方が良いだろうか。いや、今、このタイミングで降りたら、ちょっと、むしろ、良くないだろうか。七ツ森の精神的には、どっちが。
 では、なくて。七ツ森が私に求めている行動は、彼の問いかけに対するそれだ。どうにも混乱してしまっていけない。

「……な、ななち、は」

 頭をリセットしたくて、昔から使ってきたあだ名を口にする。ななちって呼んでも、七ツ森って呼んでも、馴れ馴れしい奴だって、嫌そうな顔をしなくなったのは、いつだったっけ。

「……なんで、私が、……なの?」

 すき、のたった二音は、言えなかった。現実離れしすぎているから。
 七ツ森は、「それ聞いちゃう?」と肩を落とす。わけがわからないままの私に対して、七ツ森はずっと、普段の延長線上だ。
 緊張感というか、一世一代の告白という感じが彼に無いのが、またよくわからない。先程の告白を軽いものだと思うのはとても失礼だけれど、私の知っている「七ツ森実」のそれとは、違っていたから。卒業の日、意を決して伝えられる、それとは。
 そして、やっぱり、七ツ森は笑う。
 
「あのさあ。
 こんだけ一緒に居て、わからないワケ?」

 困った奴を見る目をする彼は、しかし、確かに私のことが好きらしかった。

***
たぶんシリーズ化する



230312 約30の嘘