始まり02
審神者の本拠地はどの時代からも外れた異空間らしい。かつて秘術やらを人並み以上に扱える人間が作った場所で、其処から凡ゆる時代に行けるとか。昔やったゲームにもそういう場所あったな。
任命後の数日間で色々な荷物を詰めたダンボールと共に、政府の人々に連れて行かれ、いかにも呪術と言わんばかりの紋様で書かれた転送陣に乗らされた。
そうして私は今、随分と和風な庭に立っている。
池、橋、緑、大きな屋敷。やたら日本古来のと言っていたしなあ。
「はじめまして、ようこそ! 貴方が審神者の名前様ですね?」
「うわっ」
突然の声に振り向く。誰も居ない。やめてよ、ホラーは苦手なんだ。
上下左右を見回してやっと声の主を視認する。おかしな造形の狐が足元に立っていた。そういえば資料に案内役のこんなにがしがどうこう書いてあった気がする。変な名前だとは考えた覚えはあるけれど、よもや人語を解する狐だとは。
「この本丸を担当します、管狐のこんのすけと申します。まずは此方へ」
恭しくお辞儀をしたこんのすけに屋敷の中へと促される。
ついでに一緒に転送された荷物──は、流石に持って行けないな。背負ったリュックと身ひとつで着いて行く。
部屋は外装を裏切らない純和風で、見慣れないもののなんとなく落ち着いた。正座はしなくていいや、と胡坐をかく。
「ではこれより5振りの打刀の中から、貴方が喚ぶ刀剣男士の依り代を選んで頂きます」
「すみません、ちょっと待ってください」
話しだすこんのすけを制止した。
降ろしたリュックから来る前に貰ったばかりの資料を取り出して、中を開く。それによれば、審神者が喚ぶのは刀剣の付喪神、人間の男と酷似した姿をもつ刀剣男士。刀の種類によって見た目年齢は大体決まっている。これは既に政府から話を聞いている。続いてざっと目を通すと、鍛刀の仕方、付喪神の喚び方、出陣の仕方、遠征の仕方、刀剣の手入れの仕方、刀装の仕方、本丸と呼ばれるこの場所での過ごし方、などがつらつらと並べられている。
初めて審神者の仕事をする人間はまずどれから行えばいいのか、などは書かれていない。
「あの、その中からどれか……誰かか、を選ぶのって政府からの指定ですか?」
「いいえ、これは私が初めて来た審神者殿に勧めているだけです。比較的喚びやすい刀ですので」
「つまりこんのすけさんの説明は政府からの取り決めじゃなくて、こんのすけさん個人で考えたものってことですね?」
聞けば、そうなりますね、と返される。もう一度資料に視線を落とすと、鍛刀で作られる刀剣は使用した資材の量によって左右され、実在の様々な刀剣と全く同じものが出来上がる、とのこと。付喪神は大元の刀剣自体に宿っているが、一部がその模造品に移り、それでいて本体と遜色無い姿と力を成す、と。プラナリアを思い出した。あれだ、半分に切ると2匹になる微生物。
「じゃあとりあえず、まずは鍛刀します」
「ええ!? どうしてですか、まずはこの中からお選びになった方が」
こんのすけが喚くのを無視。資料に描かれた本丸の見取り図を見ながら、鍛刀場所とやらを目指す。
話を聞きながら誰かに合わせてやるより、説明書を読んでから自由にやりたい性質だし、何より相手は意思のある存在だというのなら性格的に相性がある。5の中から合わない相手を引くより、沢山の中から合わない相手を引くほうが、気持ち的に後悔しにくい気がする。分母が増えれば外れにあたる数も増え、運の悪さを呪いにくいだろうというだけの感覚論だけど。
後ろから着いて来るてしてしとした足音と本丸の広さを煩わしく思いながらも、そのうち目的地に到着した。
熱気に溢れた鍛刀場に足を踏み入れれば、ちょこまかと動き回る小人のような者達。マニュアル曰く、式神という存在たち。
「鍛刀、お願いできます?」
屈んで1人に声をかけると、こくこくと首肯して鍛刀場の奥を小さな指で指し示された。見ると、石のようなものや、沢山水の入った器がある。成る程、あれが資材か。分量次第で打たれる刀が決まるという。
「そこそこでかいやつがいいんだよなあ」
短刀の付喪神は幼年の姿をしていることが多いと書いてあった。初めての戦力がそれではいくら付喪神でも見た目が心許ない。かと言って打刀も、先程の5振りの誰かと被ってしまいそうでなんとなく嫌だ。
となると脇差、太刀、大太刀、槍、薙刀の辺りだろうか。読んだばかりの知識を引っ張りだしつつ考える。
「じゃあ……、あー、数値で決められるのか。んー、キリよく500ずつお願いします」
最低値が50だと言うのなら、その10倍で大きい刀が来ないとは思えない。
いきなりそんなに使うのですか!? と素っ頓狂な声をあげるこんのすけをまたもや無視して、任された、と張り切る小人達に会釈した。