04
目が覚めるとひとりだった。起き上がって周りを見渡す。誰も居ない。遠くから短刀達の元気なおはようございますが聞こえるだけ。
時計を見ればもうすぐ朝食の時間で、いつもよりは寝過ごしている。朝の太陽は障子の向こう、曇っているのか明るい陽光は射してこない。陽射しの行き渡らない空気は肌を冷やす。
普段なら布団から出ることさえ億劫だが、今日は然程躊躇わずに布の山を蹴り飛ばした。いつもの動きやすさ重視の服装に着替えて、鏡を見る。ぼさぼさの髪。櫛なんて、持っていない。手である程度整えることにした。分け目はがたがただし毛先は絡まったままだけれど、そこまで問題はないだろう。
そう結論付けて、いつも皆で食事を摂っている広間に向かった。
「おはようございまーす」
挨拶しながら目的の部屋に入れば、おはようございます、と中の面々も返してくれる。食卓は人数分の膳が並べられる途中で、今日の朝餉当番の刀剣男士達が台所と食卓を往復しているところだった。上座に座って、食事が運ばれてくるのを待つことにする。非力な私が手伝いに行っても足手まといにしかならないのは重々承知だ。今食卓に居る面子を見た限り、当番でない刀剣男士がもう既に手伝いに行っているようだし。
他にも姿の見えない刀剣男士は何人も居るが、恐らく二日酔いだろう。昨日は大量に飲んでいたから。それは、出陣で4-4と呼ばれる区域を突破した記念の宴を開いた、つまり無礼講だったからではない。
半ば酔っ払った某刀剣が、自分の酒が飲めないのか! と開けたばかりの酒瓶を他の刀剣男士達の口に突っ込んでいたからだ。人間なら急性アルコール中毒にでもなりそうな所業だった。彼は暴れまわり、疲れて眠るまで被害者達は増えていって、酔っ払いは怖いと心底思った。
それと、酒はやっぱり良いものじゃないな、苦手だな、と。思い出して、ふと零す。
「……燭台切、大丈夫かな」
燭台切は難を逃れた。けれど彼と同等の料理スキルを持っている歌仙は潰された組で、今日の朝餉は燭台切ひとりで取り仕切ることになってしまっている。
朝餉当番の刀剣が他に居るとはいえども大変だろう。4-4攻略という快挙と宴のことを考えて、今日は全員でゆっくりする予定だが、ご飯を作らないわけにもいかない。
今日の朝餉の時間を遅らせるよう指示を出して、燭台切の負担を減らすことも出来ただろうに、昨日私が眠ってしまわなければ。昨日の宴の記憶が広間で途切れていることを鑑みると、部屋に運んでくれたのだって燭台切に違いない。彼はいつもそういう役割を負って、私の面倒を見てくれる。例えば、朝になると起こしに来てくれたり、そのあと髪を梳いてくれたり。
「よし、準備完了だな!」
台所から来た愛染が最後の膳を食卓に置いた。続いてぞろぞろと朝餉当番の皆がやって来る。彼らにお疲れ様、ありがとう、と頭を下げつつ入口の様子を伺った。そのうち入って来た燭台切は私を見るなり眉を下げて笑い、
「良かった、起きたんだね。忙しくて起こしに行けなかったからどうしようかと思ってたんだ」
「ん、いや、ごめん。ごめん、沢山仕事させちゃって」
言えば、そんなに謝らないで、とどこまでも優しい。でも、と食い下がっても首を横に振られた。燭台切は、私を甘やかしすぎだと思う。
大体、朝起こしに来てくれるのだって、着替えが終わった頃に髪を梳かしにまた部屋に来てくれるのだって、私がだらしなくなければやる必要はないことだ。ただ、私が、なぜか、どうしても、夜に早く寝て朝の目覚めを良くすることも、自分で髪の毛を整えることも、する気が起きないだけ。
なのに、燭台切は私を叱っても文句はひとつも言わない。そうやって優しい彼を付き合わせている私には感じる権利など無い、朝起きた時に燭台切が居なかったことへの寂しさも、髪を触って貰えなかったむず痒さも、不満を言ってくれない彼との壁も。
「お待たせしましたー!」
最後に鯰尾が部屋へ入ってくる。彼も食卓についたのを見届けて、皆で両手を合わせた。愛染が笑んで、いただきます! なんて楽しそうに号令をかける。
食事中に隣の燭台切が、酔い潰れた皆の様子も見に行かなきゃなあ、と話しているのが聞こえた。そうか、また居ないのか、そうか、大丈夫、大丈夫、私はなんにも感じていない。
だってそうでないとしたら、兄代わりへ抱く情にしては行きすぎだろう。自己完結。膳に鎮座する緑黄色野菜料理に手を付ける。それはそれは苦かった。
ああ、やっぱり苦手なものは苦手なままだ。