12
それにしても、どのくらいヒントをあげたらいいかな。
ゲームセンターで自分のゲームスキルをたっぷり見てもらったあと、休憩しながら考える。もう夕方だが、今日はまだ一緒に居られる予定だった。もう少ししたら、この備え付けの椅子から立ち上がって、どこかへ行きたい。
オリアスとしては、名前には早く気付いてほしいところなのだ。同じ盤面に向かい合っているという自覚を持って、自分と対戦してほしい。けれど、その自覚を、オリアスが促しすぎてはならない。
終末テスト前の授業を思い出してしまう。あれも、どこをテストに出すよって言うか、慎重にならないといけないんだよね。普段から気を付けてるけど、尚更。あの時点から勝負が始まってる感じがして、なかなかどうして嫌いじゃないんだけど。
というか、もうそろそろ、そういう授業をしないといけない時期だ。会議も増えるんだろうな。終末日が来るまで名前と会える時間は減るだろうけど、やむを得ない。
「オズワールさん」
「ん、どうしたの?」
「……オズワールさんは、……星がお好きなんですか?」
突拍子も無い質問に、オリアスは些か面食らう。確かに、星をあしらったデザインの服を好むし、今もDEVISTARのシャツを着ている。それを見てのものだろうか。
名前は続ける。
「以前、雑貨屋さんに行ったとき。星の飾りのを、よく見ていたので」
「名前ってホント記憶力いいよね」
「オズワールさんのこと、ですから」
「アハハ、嬉しいな。ありがと」
自分が何を言っているのか、わかっていないんだろうな。いつか気付いたとき、恥ずかしがって言わなくなるか、それとも、どうするんだろう。
いちいち近い未来のことに想いを馳せてしまう。
──どういう反応だって、かわいいんだろうけれど。
考えて、自分が名前に陥落していることを再確認する。ああ、割に合わない。反撃でもしなければ、収まらない。
「そうだね。もう、自己紹介もちゃんとしよっか。
俺はオリアス・オズワール。家系能力は“占星”。担当教科は占星術。よろしくね」
「えっ」
「別に職業も家名も隠したかったワケじゃなかったんだ。
ただ、──名前に、下の名前で呼んでもらえるチャンスだと思ったから、勘違いに乗っただけ」
「──…………」
名前が両手で胸を抑える。不可思議さを目に浮かべて、その手の下を見下ろしていた。初めて体験するものへの戸惑いが感じられて、してやったりと思うと同時、やっぱり半分の悔しさがまた追加される。
惚れた方が負けだとしても、引き分けには持っていきたいな。感情を揺らしてあげれば、自覚にも繋がるだろうし。
オリアスは口を開く。
「名前が、フェアじゃないからって考えてくれたの、嬉しかったよ。
でも、俺が明かしたからって、名前も言わなくちゃって思わなくて良い。俺も俺で、名前の家系能力はどんなのだろうな~って考えるの、楽しくてさ」
「は、ええと、今のところ、なんだと思ってますか?」
「んー。まだ探り途中? 予知の類かなってぐらい。どう?」
「確かに、似てます」
「おっ、やったね」
笑顔を見せると、やや困惑していた名前も平静に戻ってくる。それでも、胸にあった手は、より強くそこを握っていた。
ちょっとだけ、溜飲が下がる。
「で、星が好きなのが当たってたワケだけど、名前はどうしたいの?」
「……ざ、雑貨屋さんか、アクセサリーの店に、また、行くのはどうかと、思って」
「おっ、いいね! ちょうど俺も欲しいものがあるんだ」
そうと決まれば。立ち上がって、再度、名前に手を伸べる。名前はその手をじいっと見てから、恐る恐る握り返した。折角なので、繋ぎ方も変えてやる。手首を捻って、弱い力から抜け出し、指を絡める。名前の肩が跳ねた。
「え。え、おずわ、るさん」
「さ、行こっか」
「えっ、……は、はい…………」
握った手が熱くて、名前の見えないところで笑った。こんなに照れてときめいて、普通なら、もう自分の気持ちに気付きそうなものなのだけれど。まだかかりそうだ。
混みあったゲームセンター内も、手を繋いだままなら危なげなく通れる。オリアス自身の身体で人混みを掻き分けて、名前の手を引いた。
街道へ出てからも、手は絶対に離さない。横目で名前を確認すれば、耳まで真っ赤に染めていた。
他の先生方に目撃されたのが、今日ではなくて良かった。こんな名前、知り合いの誰にも見せたくはない。知り合いでもない通行人にすら、見せたくないぐらいなのに。
様々な店を内包したショッピングセンターまで向かえば、雑貨屋もアクセサリーショップもありふれたものになる。きょろきょろと店内を見回す名前は、家系能力を使っていた。
「オズワールさん、たぶん、あっちです」
「あっち? いいよ」
あれ、家系能力使ってるだろうに「たぶん」って言っちゃうの、珍しいな。何か能力に不利な条件でもあったのだろうか。まだまだわからないことが多い。
それが面白くて、わくわくする。
ゲームセンターや道とは違い、オリアスが名前に手を引かれる側として、歩みを進めた。やがて「ここです」と店の前で立ち止まる。
シンプルなデザインと、普段使いには丁度良い値段のものが多く陳列されていた。
「ここなんじゃ、ないかなって」
どこか迷い気味の名前と共に、店内の通路を歩く。
──あ、あの角飾り。
目に留まったものがあって、オリアスの足はそちらに向いた。名前がそわそわしながら着いて行く。
この動揺具合、やっぱり予知系かな。
オリアスは、角飾りが飾られたディスプレイから、紫の留め具に星型のチャームがワンポイントになったものへ手を伸ばす。展示の傍に、是非当ててみてください、とあるので遠慮は無かった。名前の角に合わせてみる。
……うん。すごくいい。俺、紫もよく着るんだよね。
「名前、鏡見て」
「は、う、え、はい」
「どう? 俺としてはめちゃくちゃ似合うと思う」
「じゃ、じゃあ……」
すぐ傍に備え付けられた鏡と向かい合わせると、名前が照れくさそうに自分の姿を見た。そして会話をしたのち、すっと下を向く。揺れたチャームがしゃらりと鳴った。
下を見て何をするのかとオリアスも視線を吸わせれば。
「……ちょ~っと待った」
自分で財布を取り出している。それを手で止めて、そのまま強引にレジへ向かう。「え? え?」と困った声が後ろから聞こえてくるが、オリアスとしてはたまったものではない。
一度手を離して、カウンター越しの店員に声をかける。「オズワールさん? あのっ、自分でっ、自分で払えますのでっ」と焦るのも無視して、ギフト用のラッピングもしてもらう。リボンの色が選べるそうなので、黄色にした。
包装をする店員が、微笑ましげに笑う。
「勝負に出ている最中ですか」
「ええ、まさに。これがなかなか鈍感で」
「あらあら。頑張ってくださいね」
「えっ、あの、お二方はなんの話を」
「ヒミツ&♯X2661;」
「秘密です」
「えっ…………」
愕然とするのが面白い。店員とオリアスの両方を見つつ、名前は首を傾げていた。財布が出っぱなしなので、やや無理矢理に鞄の中へ戻させる。
「ありがとうございました。またのご利用お待ちしております。応援してます!」
「どうも」
俺、店員に顔覚えられるのちょっと苦手だから、一人では来ないと思うけど。すみません。名前に覚えててもらったのは嬉しかったけど、あれは例外。
胸中で謝りつつ、受け取った箱を手に店を出る。
そしてすぐ、名前に差し出した。
「これ、俺からのプレゼント」
「だ、代金」
「プレゼントに代金は要らないよ。俺が贈りたくて贈ってるんだから、受け取って」
「…………はい。ありがとう、ございます……」
オリアスが引かないと感じたのだろう。渋々、といった動作で名前が箱を受け取る。そして、ラッピングのリボンをじっと見てから、もう一度「ありがとうございます」と言う。その声は今度こそ嬉しげで、箱を大事そうに胸に抱く。
オリアスもようやっと、悔しさの無い満足で満たされた。