13
家族の生活リズムが合わないアークライト家は、共にご飯を食べるということをしない。それぞれが都合の良いときにそれぞれでご飯を食べている。ミハエルがまとめて何かを買っておいたり、私がまとめて作っておいたり──2人分、手をつけてもらえないで残ることが十分わかっているけれど、諦められずに作ってはあとでトーマスとミハエルに消費を手伝ってもらう──することがあるぐらいで、食事における繋がりは薄い。
トーマスも例に漏れず、外で食べてくることばかりだ。彼は忙しいから。それでも数少ない在宅時には、私と食べてくれる。本当は、せめてミハエルもと思うものの、そういうときに限ってミハエルが居ない。居たとしても、辞退されるか、トーマスが良い顔をしないか。ちょっと、……ううん、とても、寂しい。昔の昔は、みんなでご飯を食べていたのに。
「食欲ねえのか」
「えっ、……ううん、考え事してただけ」
過去のことを想っていたら、手が止まっていたらしい。指摘を受けて、私は目の前のサンドイッチに食らいついた。
……トーマスの様子を窺う。案の定、彼は私に視線を向けていた。あまり見られると食べにくいのだけれど、彼が私を気にしてくれるのはいつものことだ。私だって、見てくる相手がトーマスなら、取り乱すほどにはそわそわしないし。
部屋だって、私の体調を考慮して、昼の日光をカーテンでしっかり遮断してくれている。それ相応の薄暗さは、どこか安心する。よく目が利く彼に、感心と、感謝の気持ち。
トーマスは、ほんとうに、私に優しい。ずっと、ずっと。
でも、私だけに優しいわけじゃない。私を特に見てくれているのは確かだけれど、私だけではない。
それを傍で見てきたから、だから、私はつい、言ってしまった。
「ミハエル、寂しくないかな」
「……あ? あいつが?」
その言葉は、トーマスの顔を顰めさせた。まずいことを言ったかな、と思いつつ、私は口を閉じられない。
「ご飯、ひとりで食べてるでしょ」
「…………」
言うと、トーマスは、もっと機嫌の悪そうな顔になった。──ほんとうに、言っちゃいけないことを言ったみたいに。
──なんでだろう。なんで。
ご飯を食べる気分が一気に無くなって、俯く。どうして、の文字が頭の中をぐるぐる回る。思い返すのは、昔の昔より、少し今に近い昔の記憶。施設に居たときのこと。
喧嘩を売られたらしっかり買っていたトーマス、力には訴えなかったけれど心は絶対に負けなかったミハエル、そして、その代わりに、後からやり返しに行っていたのも、トーマスだ。私の周りの苛めっ子も追い払ってくれたけれど、ミハエルのぶんだって、彼は怒っていた。
トーマスは、ミハエルのことも、とても大事にしていた。
けれど、今、私の目の前に居るトーマスは、鼻で笑った。
「飯くらいで。お前じゃあるまいし」
「う……」
「俺とのメシは不満だってのか」
「そっ、そんなことない! あるわけない!」
変な方向に問いかけられて、即座に否定する。トーマスと一緒に居て、いやになるわけがない。
でも、「じゃあいいだろ」は、違う。私が言いたいのは、そういう話ではないのだ。ミハエルが寂しいんじゃないかって、話なのだ。施設では、ほとんどいつも、3人で居たのに。トーマスだって、ミハエルを嫌いになったとか、そういうことはないだろうに。
たとえ、バイロン様の作ったクリームシチューをみんなで囲めるような日がもう来ないとしても、クリスもトロンを優先するとしても。ミハエルと一緒に居ることは、そんなに難しいのだろうか。
顔の上げられない私に、トーマスは言う。
「……どうせ、前みてえにはならねえよ」
「…………」
「お前がⅢを──俺たちをどう思ってるか知らねえけどな。
復讐が終わるまで、そんなもん捨てちまえ」
吐き捨てるような言葉だった。けれど、苛立たせたことへの恐怖より、物悲しさが勝ってしまった。
だって。
「復讐が終われば」と暗に言うトーマスが居るからこそ、私は「そんなもん」を捨てられないし、そんな風に言うのは、つまり、トーマスも──。