ex02
「刃さんって、今までに恋人って居なかったんですか?」
「…………何の話だ」
「だって、気になって」
膝の間で刃さんを振り返ると、じっとりした目がこちらを見ていた。沈黙が長かったから、呆れたか、もしくは虎の尾を踏んでしまったかもしれないのだけれど、今の刃さんは平静を保っている。ならば大丈夫だ。ちょっと突っ込んだ質問だったから、大丈夫かなとは心配していた。長生きの刃さんは、どこに逆鱗たる思い出があるかわかりはしない。過去を掘り下げるたび博打になる。
刃さんは仕方無さそうに溜め息を吐いたあと、「知ってどうする」と言った。
「その方が長命種なら、いつか出会ってバトるかもしれないじゃないですか。向こうに刃さんへの未練があって~、とか」
「…………」
「そうなったときの覚悟を」
「要らない」
私の言葉を、刃さんはきっぱりと切り捨てた。あまりのばっさり具合に、やっぱり触れられたくないポイントを触ってしまったのでは? と疑問が浮かんでくる。
恐る恐る彼の表情を窺うと、眉間に深いシワが刻まれている。やっべ。「刃さん」謝ろうと名前を呼ぶと、唇を塞がれた。刃さんの唇で、だ。何故に。怒ってたと思ったのに。
唇を離されたあと、刃さんが何を言うか、今度は何をするのか、様子を見てみる。
彼は不快そうな顔のまま──もしかしてキスしながらもその顔してたの? 情緒ないなあ!──。
「──お前が殺すのは、俺だけで良い」
「……いや、バトるとは言っても殺すまではいきませんよ!?」
ずる、とお尻が滑ってしまって、刃さんに抱え直される。ずっと抱き締めていたいのかこの人は、とちょっとほっこりした。
じゃ、なくて。
私は溜め息を吐いて、刃さんを再び見上げた。
「私だって、自分が殺すのは、刃さんと私自身だけが良いですよ」
だから心配しないでください。
言えば、もう一度唇を重ねられる。
今度離されたときには、刃さんの表情から険は消えていた。