「直江のこと、好きだからいやだ」
「照れ隠しが突然だな」
「照れ隠しなわけがあるか、本気の本気だ馬鹿」
直江の家に居る最中、溜め息と共に言い放ってみれば、相変わらず都合の良い返しが投げつけられた。顔を歪めてやりながら、座布団の上で膝を抱える。追加のお茶を持ってきていたところだった直江は私の隣に腰を下ろして、嬉しそうに顔を覗き込んできた。近い。身を引く。
私だって、本当に馬鹿なのが自分であることなど、ちゃんと知っているのだ。それでも、どうしても、馬鹿でいることしかできなくて、こうやって溜め息を吐いている。
──直江が好きだ。大好きで大好きで大好きだと思う。
背筋を伸ばした綺麗な正座も、立ち上がるときの無駄の無い動作も、言わずとも私のぶんのお茶を持ってきてくれる気遣いも、ちょっとしたことでさえ愛おしそうにしてくれるのも、見ればすぐに好きの気持ちが湧き上がって、この人が好きなのだと頭いっぱいに突き付けられる。
「ほんと、そうやって自分の良いように解釈しやがって。へらへらして、私が何を思ってるのかも……」
だけれど、気に食わないところは気に食わない。
気に食わないのに、大好きなのだ。直江の何をどんなに考えても、直江のことが好きだとしつこく思い知らされてしまう。気に食わないのに大好きなのだと。
矛盾している。嫌なのに好きだなんて、自分に都合が悪いのに好きだなんて。
「好き」とかいうのも、結局は独りよがりな感情だ。相手のどこそこが自分に都合が良いから「好き」なのだ。
でも、その方が、私は良いのに。
その方が、私は私で居られるのに。
嫌いなものをどうしても許せない、頑固で偏屈で狭量で、だけど揺るがないものを持っている人間で居られたのに。穢いけれど、穢さを肯定して立っていられたはずなのに。
誰かのことが気になって、どう見られるか不安になって、どのように隣に居るべきか己に問いかけてしまって、大切にしたくて、大事にしたくて、それができない自分が嫌いになりそうで、でもそんな私を好きな人が好きって言ってくれるから身動きの仕方がわからなくなって。
まるで、「愛」みたいじゃないか。
直江が笑う。
「昔からだが、お前は素直だなあ」
「どこがだどこが」
「素直すぎて素直だし、素直ではないから素直だ」
「意味がわからない……」
悪ぶらせてくれない。
こんなひどいものが──。
title by 金星 180407(210115)