煌々と光る繊細なセンサー

 ムルムル先生に背中をぐいぐい押され、教師たちの塊へ突っ込む。
 名字先生の目が、俺を見上げた。その、不可思議な輝き。

「……名字・名前です。よろしくお願いします」
「は、じめまして。占星学のオリアス・オズワールです、フレンドお願いしてもいいですか?」
「はい。ええと、IDはこれです」

 ぺこりと会釈されてのち、名字先生からス魔ホ画面を向けられる。俺もゲーム画面を開いて、フレンド登録を始めた。表示されたユーザーは、確かに俺がフレンドに欲しがったキャラクターを登録している。
 申請の処理中、他の教師陣がこちらに声をかけてきた。

「名字先生、わりとゲームやるんだって。歴史もの詳しい」
「親がゲーム会社勤めなの聞きました? 親戚にイラストレーターもいるらしいですよ! ペンネーム教えてもらえなかったけど、有名っぽい」
「歴史ものじゃなくて難しいやつは実際にやったことないけど、家族がプレイしてるの横で見てたらしい」
「情報が多い!」

 矢継ぎ早に言われ、思わず叫ぶ。名字先生もなんだかむず痒そうだ。
 皆、レアキャラが興味を惹く存在だったことでテンションが上がっているらしい。イフリート先生が心配そうに立っていたわけである。

「……と、フレンドありがとうございます。助かりました。欲しいアイテムとかあります?」
「え、と……。じゃあ……」

 戸惑いがちの名字先生が、ゲーム内アイテムをいくつか挙げた。自分の所持アイテム欄で、それぞれの所持数を確認する。入手難易度も考えてこのぐらいかと見積もり、フレンドへのプレゼント機能を使う。お礼だと言えば、名字先生は目を瞬かせて、ス魔ホを凝視した。

「ありがとうございます。あ、あの、オリアス先生は」
「いえ、俺はいいです。将軍のフレ、マジで欲しかったので」
「そう、ですか。……今まで、フレンド機能使ったことなくて、定石とか、慣れてなくて……」

 口籠もるのを見ながら、内心で驚く。フレンド機能を使ったことがないとは。こういうゲームは往々にして、大なり小なり他プレイヤーとの協力が大事になる。このタイトルはマルチプレイに対応しているわけではなく、フレンドが貸し出しているキャラクターを借りる程度のものだが、それですらしたことがないというのか。
 イポス先生が首を傾げる。

「名前先生、周りにやってる悪魔いなかったんですか?」
「は、はい。家族も、これは携わってないので」
「フレンド無しで6章ってどうやってクリアを? 将軍の育成素材って、7章以降しか入手できませんよね」
「あ、え、6章って比較的易しかったような。ちょっとマイナーな話が元ネタで嬉しかったですけど。最初の行き先でベナンダンティの──」
「ちょっと待ってください、俺知りませんそのルート」
「何それ!? オリアス先生が知らないってガチのやつじゃないですか!?」

 食い気味に言葉を発してしまうと、プレイヤー全員が前のめりになった。驚く名前先生に、あれはこれは、俺ここ引っかかったんだけどなんかあるの、そういえばあそこも隠しルートありそうだったけど、と質問が浴びせかけられる。
 名前先生はそれぞれに答えてくれたが、そのいくつかはここにいる誰も知らない仕様に関するものだった。

「うわ~、製作陣、マニアックなところからネタ引っ張ってきてません? ガチの古文書読んでないと無理でしょ」
「魔歴のあの辺専門にしてる悪魔じゃないとわかんねーよ」
「魔具も。監修に有名な学者呼んでたのコレか」
「元ネタ知らない限り行かないだろ、そのチャート……」

 頭を抱える。プレイヤーに魔歴の教師が居れば話も違ったのだろうが、現状そうではない。
 かつ、俺の知る限り、名字先生が教えてくれた仕様を見つけた悪魔は居ない。明らかに不利なキャラを使いつつ乱数調整して、どう見ても関係無さそうなアイテム使って、どう考えても使わないような道を選んで、だとか。縛りプレイヤーでもしないような操作と、不必要で無駄に見える動きばかりである。それで元ネタをなぞることになって、俺たちがプレイしたルートとは難易度やストーリーが変わるとは。小規模な戦いの話が元だと言われたときは、戦術学のイポス先生が視線を集めたが、彼は首を横に振って否定した。普通はそんな戦法をとらない、これが実際に上手くいったというのならとんでもない幸運だったとしか考えられない、ということである。そんなん気付くか。

「さすが博物塔管理者、伝承と魔歴と魔具に強い……」
「み、みんなこのルートを通るものかと……」
「確か、そういう誘導は無かったと思います。製作陣も性格が悪い」
「ですね。ストーリーで提示される進め方だと、だいぶ無茶な難易度だけどいけるかもしれないなってなりますし……」

 ゲーマーとしては、いくらか難しい方が燃えるものだ。けれど、知らない仕様があったこと自体に悔しさを覚える。元の知識量の違いだとは理解しているのだが。
 頬をかく名字先生は、視線を右往左往させている。それが、壁に向かった。名字先生の背後に居たイフリート先生が、あ、と零す。

「名前先生、時間大丈夫ですか?」
「う、えと、防犯用の魔具は稼働させてますけど、そろそろ……」
「引き留めてしまいましたね、すみません」

 それで気付かされた。名字先生は博物塔のためにほとんど外へ出ないのだった。もっとゲームの話をしたいという空気だったのだが、仕事があるのなら仕方無い。
 イポス先生の謝罪に、名字先生が「いえ」と否定する。その頬は、緩んでいた。
 
「ひととゲームの話をするの、初めてだったので」
 
 ──そこに名残惜しさを読み取ったのは、きっと、俺だけではなかった。
 ムルムル先生が声を上げる。
 
「その前に魔インだけ交換しちゃいましょう! ゲーム用のグループ作るんで!」
「……魔イン、ですか?」

 不思議そうな名字先生に、他の教師たちが笑いかける。
 俺もまあ、なんとなく、口端を持ち上げてみせた。