09
「……何の真似?」
最近、ベオウルフがよくマイルームを訪ねてくるようになった。前のような疑似戦闘を怠ることは無いけれど、その合間を縫って、私の事務仕事を見に来る。
別に見られている程度で集中力を途切れさせたりするほど無能な私ではない。でも、いちいち来られると気になってしまうことも事実だ。
睨みつけてやれば、ベオウルフはさらりと言う。
「『人間観察』も趣味のひとつらしいぜ」
「じゃあ、他の人間やサーヴァントのことでも観察したら?」
「いいや、俺が見たいのはマスターのことなんでね」
「……、だからって、なんで私がそれに合わせなきゃならないの?」
ベオウルフの言は、不可解極まりない。私の仕事なぞ、見ていて何の足しになると言うのか。彼は敵の戦闘スタイルを分析して戦うようなタイプじゃないから、他のサーヴァントの戦いの様子でも見て来いとも言いづらいけれど。とにかく、こんなに見たって私の勇姿がどうのもないだろう。
睨むのをやめて、資料に視線を戻す。何か言いたげな気配がした。
「俺も王だったんだぜ。政務官の重要性は知ってる」
「あなたが王だったなんて知ってるよ。でも今のあなたは狂化しているでしょう。手助けにもならない道具を傍に置く必要って?」
「そりゃあねえが」
少し呆れ混じりの声に眉根が寄る。何故使い魔が主人に口答えをするのか。そうは思うも、使い魔の能力を把握していないとも思われたくない。そこを突き返して、はた、と。
「……政務官?」
「ああ。戦闘能力に関しては自覚してるんだろ。『魔術師』は研究職だし、大体、前線に立って戦うんじゃなくサーヴァントに任せるのが『マスター』の基本だって話じゃねえか。
人には向き不向きがある。お前が向いてるのはソレだってわけだ」
「……否定はしないよ」
欠点を指摘されても、何も言う気は起きなかった。ベオウルフから見れば、私の戦闘能力などたかが知れている。
あの背中が、その証拠だ。
脳裏をよぎった光景に、こっそり舌を打つ。コーヒーに口を付けて、カフェインを摂取した。
ベオウルフは唇の端を吊り上げる。その視線は、山積みにした紙の束に行っていた。
「サマになってるって前に言ったろ。今の俺じゃあ頭の働かねえところもあるが、この書類を見る限りはなかなかのモンだ。さすが当主様ってやつだな」
そういう賛辞の言葉は、耳に慣れない。
お前がやるんだ完璧にやるんだ私がやらなくちゃ完璧にやらなくちゃって声ばっかりを聞いてきて、裏表の無い認定なんて、Dr.ロマン以降にあっただろうか。でも、Dr.ロマンだって、こんなに真正面から沢山の言葉を口にしなかった。
無性に胸の奥がぞわぞわして、胃を内側からやわく引っ掻かれているような心地になる。コーヒーの飲みすぎで胃でも荒れたのだろうか。
マグカップに残った黒い液体を飲み干して、丁度良く目の前に居る暇人サーヴァントに、備え付けの冷蔵庫から牛乳を取ってくるよう言う。手元では、魔術で稼働する簡易コンロを引き寄せた。ベオウルフは、はいよ、という雑な返事をして命を果たそうと動き出す。
その背に、
「あなた、この前から当然のことをいちいち口に出しすぎ。私が安っぽくなるでしょう」
「ハ、そりゃあ失礼した」
投げかけた文句の答えもやっぱり雑で、私の要求が恐らく聞き流されたことを悟る。ベオウルフから受け取った真っ白な液体を火にかけながら、大きく息を吐いた。