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「名前」という存在と出会って間もなく、アルベドはふと口にした。
「キミは一体、何ものなんだろうね?」
問いかけたわけではない。抱く疑問を、そのまま溢れさせただけだ。
けれど名前は、楽しげに/悲しげに/どうでもよさそうに/嬉しそうに、あるいはそのどれにも当てはまらない感情に満ちた表情を浮かべた。
「あなたの望むとおりになれますよ」
アルベドは目を瞬かせ、すぐ我に返り、ふむ、と頷く。
「いいや、キミはキミだな」
「はい、私は私。『名前』ですよ」
肯定を返した名前を見据える。
その姿は捉えどころがなく、不定形に揺らぐようだった。
「未知」の塊。
それらを解き明かし、知識として飲み込むことを喜びとするアルベドにとって、まるで大きな壁のようだった。そして、常に興味深い対象であった。
ある意味で、先の名前の返答通りだ。紐解ける謎に溢れた、アルベドの喜びの可能性を内包した、不可思議な存在。
さらには、
「ああ、そうだ。これは私も外から与えられた知識なんですけど。
『■■■■■■■』。……あー」
言語として認識できぬ音を、名前は発した。噛み合わないパズルのピースを組み合わせ直すかのような、噛み合うピースを自らの手で作り出そうとするような、そんな佇まいで、名前はしばし黙る。
これが、この世界のものではない言語で、己の知らぬことを語るときのものだと、アルベドは知っていた。
待ったのは数秒。名前はパズルを終えて、
「『V.I.T.R.I.O.L』。
錬金術の秘密らしいですよ。硫酸の意味でもありますが」
「初耳だな。何かの頭文字だろうか」
「はい。そこまでは『覚えてない』んですけど、『思い出し』ましょうか?」
「……いや。まずは、キミがどうしてそれを言おうとしたのかが気になる。どうしてだい?」
探求には段階がある。一番最初に解き明かすべきことをアルベドは判別し、今度こそはっきりと名前に問いかけた。
「『アルベドさんに似合いそうな言葉だ』、と」
名前はどこか他人事に言う。その様子はやはり存在としての違和感があった。名前がしていたパズルのような行いを、存在として常に行なっているような。
──アルベドは、「白亜」を冠する天才だ。だから、点と点から見出す線は、一や十では収まらない。それらの予測を細かくほどきながら原因や理屈を探し、既知として食する。
「名前」という存在に対する予測も、いくつかあった。
──しかしながら、解き明かすことができるのか。
アルベドは考える。
「名前」が「名前」であるがゆえに。