034

※俗に言う「モブおじさん」=「夢主」、外見イメージは自由だけど「おじさん」
※やや暴力表現かつ婉曲的な性行為の匂わせ
※既存キャラ同士CPとしての意図は無く、ただ「彼」が「彼」なだけ


「……はい、おじさん。これ、今日の分です」
「…………これだけ?」
「こっ、これだけです! すみません! 次はもっと持ってきますか──ぐッ!!」

 依央利は殴られ、ラブホテルの床に伏した。暴力の主は、ふんぞり返って座る男である。
 依央利と男は、いわゆる「金を払って身体を売買する」関係にあった。故に、今日も彼の細い身体には、蹂躙された痕跡と、赤いミミズ腫れがのたくっている。
 男はサディスト気取りの乱暴者で、依央利の身体をかえりみず、責め苦を与えた。内容は、男の気分によって変わった。鞭や蝋燭を持ち込まれることもあれば、ただ手の平で強くぶたれるだけのこともあった。
 そして、毎度手酷く依央利の身体を弄んでなお、男は金を払うことはなかった──のだが、それは依央利の性質ゆえでもある。「奴隷」としての生き方のみを持ち得る依央利にとって、奴隷契約主たる男に金を払わせるなど、言語道断であったのだ。金は、依央利の身体を良いようにする男ではなく、依央利の側から支払われた。男にとって都合が良かったかどうかは、きっと言うまでもないことだろう。
 精と汗、ほんの少しの鉄の匂いが立ちこめるラブホテルの一室、依央利は固い床に正座をし直して、ベッドに座る男を見上げていた。散々乱暴をされた身体は今にも崩れ落ちそうだったが、それを堪え、献上した札束がめくられるのを見ていた。男は下唇を突き出しながら、紙幣を数え直してのち、依央利の肩を蹴りつける。
 この行為に関しても、依央利に否やは無い。からっぽの身体をもって他者に奉仕することこそ、依央利の生き方だ。「愛」だ。その身はいくら尽くしても尽くし足りず、負荷はあればあるほど喜ばしい。肩ではなく、顔を蹴られたって構わなかったぐらいだ。見えるところに人為的な傷を作ればシェアハウスの面々に心配され、ひいては男との関係を勘繰られてしまうから、服で隠れるような場所にしか傷をつけないことになっているのだが。依央利は少し、もどかしく思っている。

「足」
「はいっ」
「犬が人間の言葉を喋るな」
「ワンッ&♯X2661;」

 疲労困憊の身体に鞭打って、依央利はその場に這いつくばった。露わになった背中へ、男の足が無遠慮に載せられる。時たま力任せにかかとを落とされて、依央利は呻きながら体勢を崩した。床に手を突く四つん這いから、腕や肘を使って身体を支えるものになってしまうと、再度強く蹴り下ろされる。震える手で身を起こして、傾かぬ足置きの役割をまっとうする。
 ここまでの扱いをされても、やはりなお、依央利に拒む気はなかった。
 それが、本橋依央利という、「服従のカリスマ」であった。


 依央利が、ホテルを後にする。男は壁に背をつけて見送った。小さくなる依央利の姿が、ほんとうのほんとうに見えなくなるまで、その場で眺め続けた。
 加虐と被虐の夜は終わり、空は白んでいる。いつだったか、依央利は、「うちは門限がとんでもなく早いんですけど、友人の家に泊まりに行くって言ってるんで、まあまあ大丈夫なんです」と男に教えていた。
 男は踵を返し、荷物を持って、自分の帰路に着く。
 ──そのとき、路地裏に男の身体が引き摺り込まれた。


「依央利の金は、この家の金でもある」

 「カリスマハウス」の一室、呟く声があった。同時に録画機器の再生ボタンが押され、「もう、依央利君、と、しません、しません、から」と、途切れ途切れの言葉が流れ出した。録音された音声を一言で表すなら、それは「命乞い」であった。

「俺たちに払われてる金だ。過度な無駄遣いはさせてやれない」

 声の主が、顔を上げる。
 録画機器のレンズと、視線が合った。
Q.「隷属のカリスマ」であって(一応)マゾではないのでは?
A.そうですね
Q.じゃあなんで暴力を受け入れたんですか?
A.事情があったから
Q.弱味でも握られてたんですか?
A.多分そう部分的にそう
Q.名前のことはどう思ってたんですか?
A.己に暴力を加えることを好む相手への「隷属」として、その通りにするぐらいには
Q.つまり?
A.空っぽの彼にはわからないことです



220917 約30の嘘