幕間02
今日も、魔インの通知音。
あの男悪魔からのメッセージだろうと、すっと手を伸ばした。ベッドの上、ス魔ホをいじれば、予想が当たっていたことを確認できる。元より、このようなやりとりをする仲の相手は少なく、そのうちのひとりも少し前に居なくなった。
今となっては、毎晩、寝る少し前の、彼ぐらいだ。
『この前買いに行ったゲーム、めちゃくちゃ面白いよ。クリアまだだけど、続きが楽しみ!』
『よかったです』
『いい買い物した~!
名前は好きなゲームとかある?』
問いかけられて、指が止まる。
彼はたびたび自分の好きな物を聞いてくるし、自分からも教えてくれる。けれど、いつも答えに困った。
『ゲームあまりやらないです』
『そうなんだ、興味は無いカンジ?』
ほら、また、やっぱり、難しいことだ。
好きな味、好きな料理、好きなゲーム。
興味があるもの。
欲しいもの。
──考えたことなんて、無かった。
『オズワールさんのおすすめはありますか』
『俺のか~、ハードは何持ってる?』
『忘れてました。持ってないです』
『じゃあス魔ホでできるやつにしよっか』
返信に、そういうものもあったか、と思う。ゲームショップで働いていると、ゲーム好きな悪魔に囲まれる。必然、雑談する悪魔たちの話題はもっぱらそれで、よく耳に入ってくる。
メッセージ相手がいくつか挙げてくれるタイトルも、聞き覚えのあるものばかりだ。一通り見て、『ス魔ホにダウンロードしてみます』と返す。
それから、今しがた連想した内容を続ける。
『そういえば、他の店員から腑炉無ソフトウェアの新作が出ると聞きました。オズワールさんは買うんですか?』
『買うよ! 気になってる? ゲーム初心者向きかというと悩ましいかも』
──興味があるもの。
その言葉が、頭をよぎった。
『いえ。オズワールさんが購入されたシリーズの新作だったと思ったので』
『そうそう! あの会社のゲームはやりごたえあって楽しいんだよね~』
先日共に出掛けたときに見た、笑顔が浮かぶ。店員と客だったときには、あまり見られなかった表情だった。店での彼も、会計のときに笑って礼を言ってくれていたが、なんだか、それとはまた別の笑い方だったように感じた。
あの日の彼は、とても新鮮だった。笑みを絶やさず、たまに観察する目をこちらに向けてきた。星が好きなのだろうか、雑貨屋ではそれをあしらった物に目を留めていた。
思いを馳せるところに、通知音が続く。
『前作買ったの、けっこう前じゃない? 記憶力良いね!』
褒め言葉を受けての感想は、「違う」だった。
正すべく、メッセージを入力する。
『いえ、オズワールさんだから覚えていただけです』
スムーズだったやりとりが、そこで途切れた。
何か気に障っただろうか。首を傾げて、『変なこと言いましたか』と聞く。
──噛み合わないことは、直した方が良い。
『変なことじゃないけど! びっくりしただけ』
『そうですか』
返答に相槌を打ちつつ、今度は、なんでびっくりしたんだろう、と考える。けれど、他人に踏み込むという選択肢は頭に無かった。
だから、簡単な返事をしたきりで、あとは向こうの発言を待つ。
『質問続きでごめんね。
変なこと聞くんだけど、他の人だったら覚えてなかった?』
『はい』
送信。『質問は嫌じゃないです』も付け加えておく。なぜ謝るのかわからないし、なぜ変だと思うのかもわからない。
自分にとっては、当然のことだったから。
それからも幾度かやりとりし、遅くなってきたからとお開きになる。
魔インのメッセージ履歴を遡り、教えられたゲームを確認。言った通りダウンロードし、本格的に始めるのは明日起きてからにしようと決める。
アラームを設定したス魔ホを枕元に置き、目を閉じた。
暗闇の中、今しがた気付いたことを思う。
──私は、オズワールさんに興味があるんだ。