07

 トーマスが、カードをベッドの上に広げている。
 下半身を投げ出して座っている私には、ベッドの上であぐらをかく彼の横顔が、よく見えた。
 デッキを作っているのなら邪魔したら悪いよね、と思いつつ、真剣な顔が格好良くてついつい見てしまう。もしもそれを「Ⅳ」のファンの人に言ったら、きっと同意してくれるはずだ。「Ⅳ」の人気の要因のひとつには、まず間違いなく、顔の良さがあると思うので。強いのはもちろんとして。
 ……とはいえ、邪魔するも何も、もとから距離が近いんだけ、ど。
 この前の一件を境に、ふと気付くと距離が近くなっている。トーマスがすぐ傍に座っていたり、なんなら後ろから抱き込まれていることすらあったりする。……もしかして、もしかしたら、だけど。
 ……「恋人」、なのかな。私たち、って。
 トーマスに尋ねたとしても、真実がどちらにせよ怒られる気がするから、しないけれど……。
 ……そもそも、知ったところで、関係性の名前によって何かが変わるわけでもない。私が少しでもトーマスの役に立てているならそれで良い。私が近くに居ること、それがトーマスの望みなら、私は応えるだけだ。
 それが、私の「好き」だから。
 私がトーマスにかけている迷惑と比べたら、ほんのちょっぴりの奉仕だろうけれど。私の自己満足でしかないけれど。そうだとしても。

「名前」
「あ、う、えと、ご、ごめん、見すぎた?」
「まあ視線は……、いや、構わねえけど。
 それよりもこっちだ、こっち」

 呼びかけに答えると、トーマスがカードを手で指し示す。ついでに「もっとこっち来い」と腕を引っ張られて、私もベッドに身体を乗り上げた。と、さりげなく手を重ねられた、のは……。やっぱり、そういうことなのだろうか。……今は置いておこう。
 トーマスが示した通り、私もカードを見る。
 横一列に、いろんなカードがそれぞれ1枚ずつ並べられている。ただ、全てがモンスターカードで、同じ名前がついていた。

「『ギミック・パペット』。まだ大会で使ったことはねえけど」
「へえ……」

 その紹介に頷く。
 「パペット」とされているように、どれもこれも人形のモンスターだ。でも、なんというか、グロテスクというか、ホラーというか、ちょっと不気味なテイストである。
 ……意外だ。トーマスに対して、人形、という取り合わせは。
 ミハエルの「オーパーツ」のデッキは、ミハエルの好みをそのまま採用している。でも、これはそうではない、ような。トーマスの好みが変わったか、性能を重視して選んだだけなのか、どちらだろう。
 私が内心不思議に思っていると、トーマスが言った。

「お前、この中ならどれが好きだ」
「え、わ、私は」
「やったことないとか詳しくないとか、んなことはわかってる。
 それでも、見た目や効果でなんとなく選んだりはできるだろ」

 私の発言を先読みして念押しされてしまった。至れり尽くせりではあるけれども。なんか申し訳なくなってくるというか……。今更すぎるけど……。
 もやっとした自己嫌悪。でも、トーマスの望みを叶えることが最優先だ。カードをひとつずつ、丁寧に見ていく。色々なモンスターがいる。西洋人形みたいなモンスターが多いだろうか。でもそうではない子もいる。

「……えっと……、
 ……あ、これ。かな」
「……おい、マジでそれか? お前、なんつーか……」
「え、え、と、トーマス、この子きらい? だめ、だっ、た?」
「いや、俺は好きだけどよ」

 ビビッと来た子を指さすと、トーマスが顔を顰めた。
 悪くはないらしいけれど、なんでそんな反応をするんだろう。

「俺はそんなこと思った覚えはねえが、『ギミック・パペット』の見た目は好き嫌い分かれるとか言われてる。
 で、これは特にそうだろ」
「え、う、うーん……」

 見た目。見た目が問題らしい。
 そ、そうかなあ、かわいいと思うんだけどな、《死の木馬》。
 「デストロイ」と「トロイの木馬」をかけているのも面白いし、「トロイの木馬」みたいに相手が油断したところで仲間を呼べるのが良いと思う。それに、やっぱりかわいいし。
 トーマスは《死の木馬》を手に取ると、んん、と唸る。

「……基本、自壊が前提なんだよなぁ」

 そして呟かれた言葉に、私は首を傾げた。私はデュエリストじゃないけど、試合は見るから、そういうタクティクスで組み込むカードだということはわかる。でも、その効果がどうしたっていうんだろう。
 悩んでいる様子のトーマスを見つめる。しばらくして、彼は大きく息を吐いた。

「やっぱりこの俺が選んでやった方が良い、ってことがよーくわかった」

 えっ、何が?
 展開についていけずにいると、トーマスは《死の木馬》を元の場所に置く。
 代わりに、違うカードを取った。

「名前。
 ほら、これ」
「え?」
「《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》。
 1枚、お前にやる。肌身離さず持ってろ」

 それをこちらに差し出す。
 私は驚いて、動きを止めてしまった。視線だけ下ろして、目の前に突き付けられたカードを見る。
 《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》。星8つ。つまりレベル8。私の素人考えが合っているかどうかわからないけれど、だいぶ重要な役割を果たしそうなカードだ。テキストを見る限り、高ランクのエクシーズモンスターの素材にすることを想定されている。だから、たぶん、そう、だよね。
 私が、そんなカードをもらって良いのだろうか。
 そもそも、私がデュエルをしないことはトーマスもよく知っているはずだ。私が良いカードを持っていたところで、何にもならない。
 そういうことを、ぐるぐる考える。でも、いくら時間をかけても、トーマスは恐らく引かないだろう。それに、トーマスが望んでいることを、私は拒否しない。結果が決まっているのなら、過程をずるずる引き延ばしたって意味は無い。
 せめて慎重に、ゆっくりとカードを受け取った。

「……あ、ありがとう……」
「絶対汚したり破ったりするんじゃねーぞ」
「ん、うん、もちろん、気を付ける。
 大事に、するね」
「……ああ」
 
 手の中のものを胸に抱く。うん、なんにせよ、トーマスから何かを貰えたということは、それだけで嬉しい。トーマスに言われなくても、私はきっと、肌身離さずにいることを決めていた。
 とはいえ、肝心の、破損しないようにしつつずっと持ち歩く方法、というのはどうしよう。ケースに入れて首から下げる、とかすれば良いだろうか。それなら自分からも見えやすくて安心できる。使っていないカードローダーとか、首から下げるのに使えそうなものとかってあったかな。
 ある程度見当を付けて、よし、と意気込む。手元のカードをもう一度見た。
 ──それにしても、トーマスはどうして、《ネクロ・ドール》なんてくれたんだろう。
 不思議に思ったけれど、なんだか聞いても教えてくれなさそうな気がした。  

どうかあなたの神様にしてください

title by エナメル 190403