141031
ハロウィン。オレの故郷の祭り、サウィンがあれこれと変遷して、現代に残った形。名前がサウィンについて詳しく教えてと言ったので色々と話してやっていたが、オレがハロウィンをしてみたいと言うと名前は元気良く笑って頷いた。
「外国の子供達なら本当に仮装して外を歩くんだろうけど、日本はハロウィンにかこつけて友達同士でお菓子を交換したりすることの方が多いかなあ」
「日本人はどうも遠慮しがちで目立ちたがらないよな」
今度はオレがハロウィンについて尋ねてみると、随分と小規模らしかった。名前は日本人は恥ずかしがり屋が多いのかもねえ、とけたけた笑っていた。それについては思い当たる節が多々あった。主に名前本人の事で。
「仮装してトリックオアトリート! ってやるのも身内だけだったりするかなあ。昔友達と集まってパーティーした時はそんな感じだった」
「Trick or Treat、ねえ」
名前の言葉に口元がにやりと緩んだ。発音良いね、格好良い! とはしゃぐそいつの髪を撫でてやりながら、少し前に買ってきたエロ本を思い出した。その中に、ハロウィンに乗じたコスプレものの特集があったのだ。別段コスプレプレイには興味のないオレだが名前がやると言うのなら話は別だし、折角のイベントごとなのだから乗っかるのも悪くない。エロ本では露出の多い衣装ばっかりだったが、名前はどんな仮装をしてくるのだろうか。ハロウィンは本来エロい衣装を着るイベントじゃないってのは重々承知。
とは言ってもノリの良い名前のこと、オレを喜ばせようとエロいのを着てくれる可能性は十分あるはずだ。
──というわけで期待していたが、これは予想だにしなかった。
「おばけだぞー!」
「……ああ、そうだな」
目の前でゆらゆら揺れる白い物体、自称お化けには足が生えていた。正体はと言えばベッドの上のシーツを頭からすっぽり被っているだけの名前で、その中で腕をばたばたさせながら菓子の提供を待っている。
──本当に、心の底から、全くもって、色気もへったくれもない。
「なあ名前。仮装って言うならよ、もっとこう」
「何か着るのは恥ずかしいのでやめた!」
どうやら名前の羞恥心を甘く見ていたらしい。楽しみにしていたというのに。トリックが良いのかー、トリートが良いのかー、さあどっちだー! などと声を上げる姿は子供っぽく、確かに彼女らしくはあるのだが。
とてつもなく残念だ。
楽しそうなのは可愛いと思う。が、オレはもっとぴんくでいやらしいのが良かった。
「お菓子くれないんならね、トリックだよ!」
色気もなければ怖ささえ微塵もない喊声と共に、名前はぴょいこらぴょいこら跳ねている。視界が悪いからかあまり動こうとせず、言葉の勢いの割にオレに飛びかかってきたりはしない。
こうなったら、決まり文句の方だけで楽しむか。元より菓子は用意していない。悪戯とやらの方を選んで、……いや駄目だ。悪戯の方を選んでも、やる側がこいつだ。エロい悪戯なぞしてこないだろう。恐らく全力で擽ってくるか、もし押し倒してきてくれたとしてもマウントを取ってドヤ顔とやらをする程度だ。
逆にオレがTrick or Treatと言ってしまえば良いのだが、前々から楽しみにしていた名前は菓子の準備も万端らしいし。──まあこうなっちまったもんなら普通に楽しむか、と結論付けようとして。
飛び上がる度にずり落ちていきそうになるシーツを抑えながら菓子を強請る名前のある一瞬を、オレは見逃さなかった。
「名前」
「お? なになに? お菓子?」
シーツ越しに、くぐもった喜びに満ちた声が聞こえる。そうか、嬉しいか。オレも嬉しい。口元に笑みが浮かぶ。
「オマエ、下に何着てる?」
白い塊がぴしりと凍りつく。次の瞬間には急ぎ後退し始めていた。それを捕まえる。抱き込み、次いで肩に担ぎ上げる。
「わー! わー! わー! 駄目ー!」
騒ぎ立てるが気にしない。名前の腕はシーツを被っているせいで抵抗はできないし、足をばたつかせていてもこの程度どうということはない。むしろシーツが翻って、表面積の多い肌色がオレの期待は間違いではなかったことを教えてくれる。
……そもそも最初から気付いていても良かったようなモンだ。こいつは、楽しみにしていたらしいハロウィンでシーツを被るだけだなどといかにも即席のような仮装で済ませようとする奴じゃない。その時になってやはり恥ずかしくなって、場をしのぐためにシーツを被ったのだと考える方が妥当だ。
「こんな露出でかいの、オマエは普通着ねえだろうに。オレのために用意してくれた、と見ていいんだな?」
「えっ、……の、ノリっていうか……。べ、別に露出多くなんてないよ、普通のお店で普通に売ってるレベルだよ!」
「だが大分足出してんだろ」
言いながら太股をするりと撫でる。名前は悲鳴を上げて身を跳ねさせた。いいねえ、面白くなってきた。余程恥ずかしいのか珍しく激しく暴れる名前の脚を抑え込んでやると、焦りに満ちた叫びが背中を襲った。口を開く。
「名前、Trick or Treat」
「え、うん、作ったやつはキッチンに」
抱えられたままの名前が僅かに身を起こす。前が見えないため見当違いな方向を向いているが、本人はキッチンを指し示しているつもりだろう。
「オマエ、今この状態でそれ取りにいけるか?」
「……クーが離してくれれば」
「すると思うか?」
「う」
そこまで聞いてオレがなにを言わんとしているのかが分かったのか、名前はまた暴れ出した。逃がすかっての。体を強く抑える。自分が深く笑みを浮かべているのがわかった。
「菓子をくれねえなら、悪戯するしかねえよな」
「そんなあ!」
悲鳴染みた声を上げる名前。対してオレが零すのは笑い声だ。本当に可愛いやつ。ベッドに向けて歩きだせば、背中に軽い衝撃が与えられる。頭突きでもしているらしい。──名前、オマエにゃ悪いが。抵抗されると俄然、燃える。
……ああ、やはり祭り事ってのはいいモンだ。白い塊をベッドに放り投げて上に覆いかぶさる。暴れる体を抑えつけると、シーツに手をかけた。さあ、悪戯とやらをさせて貰おうじゃねえか。安心しろ、オマエも愉しいようにしてやるから。