05
申し訳程度の戦闘シーン(すこし流血表現)
「なんだ、震えてんのか」
「そんなことあるわけないでしょ」
とうとう私たちは、次の特異点にレイシフトすることになった。
セプテム。特異点に成り得る時代なんて限られているにしても、ローマだなんてまた高名な。以前に家の仕事で現代の此処には来たけれど、まさかこんな時代のとは。
ベオウルフをはじめとしたサーヴァントたちは、召喚サークルが成立してすぐに呼び出した。
初陣になる北欧の大英雄は満足気に笑っている。初めてのレイシフトになるけれど、特に緊張の色は見えない。当然だ。精神面の不安要素などあってもらっては困る。
ローマ兵やゴーレムばかりだからと言って、油断はできない。サーヴァントも居る。真意やら実力やらがまったく不明なレフも居る。自分の側に問題があれば何が起こるか分からない。
……そのあたり、好戦的なベオウルフが戦意に満ちているのは良いことなのだろう。戦いに集中しすぎて周りが見えなくなってしまったり深追いされたりしては困るけれど、分別がつかないサーヴァントではない。よって戦闘能力の高さというメリットだけが残る。
ベオウルフは、優秀なサーヴァントだと言うべきだ。
だって、マスターの言うことを聞かないサーヴァントなんて、使い魔として不出来なのだから。
早く戦いたいとでも言いたそうにうずうずと身体を揺らすベオウルフを横目にしながら、私たちは出発した。
私の予測は正しかった。ベオウルフは襲い来るローマ兵や魔物を次々に切り伏せ殴りつけ蹴り飛ばしていく。
相変わらずだ。
ベオウルフは強い。
私もガンドやルーン、出来るだけアクションの少ない魔術で応戦しながら、サーヴァントたちに指示を飛ばす。キャスターはベオウルフの補助に回らせて攻防の能力を更に引き上げ、アサシンは気配遮断で敵の不意を突かせる。
ゴーレムが砕ける。ヒトを殺す。スケルトンにヒビが入る。ゴーストが消し飛ぶ。
ヒトを殺す。ヒトを殺す。ヒトを殺す。ヒトを殺す。ヒトを殺す。
眩暈がした。
吐き気が込み上げる。
飲み込む。指先を兵士に向ける。殺さねば。ガンドを放つ。喉に命中。ヒトガタをしたものが崩れ落ちる。咳き込んでいる。
死んでいない。
息を呑む。
「マスター!」
声がした。私の足元に大きな影。振り返る。
キメラが大きく口を開けて、私を今にも飲み込もうと。
「させねえ!」
瞬間、血飛沫が上がった。びちゃびちゃとはじいて、私の頭に顔に体に降りかかる。
呆然と、キメラに突き刺さった剣を見ていた。向こうから投げられたそれは、ベオウルフのものだ。
キメラはまだ動いている。いつの間にかベオウルフが私の目の前に来ていた。
その背は、私とキメラの間に佇んでいる。
「怪我はねえな?」
──私は。
魔術は一子相伝で下の兄弟はスペアで道具で私は見捨ててひとりで跡を継いで当主で刻印は重くて痛くて許されなくて先祖代々の業があって重くて重くて重くて、私はひとりでそれを背負って辛くて泣けなくて許されなくてがんばらなきゃってがんばらなきゃってがんばらなきゃってつよくならなくちゃって責任があるんだって魔術師らしくいなきゃって当主らしくいなきゃってつよくならなくちゃってがんばらなきゃってつよくならなくちゃって。
私は。
弱くて。
「ベオ、ウルフ」
「そこに居ろ」
ばかみたいに、声がふるえる。
ベオウルフは、首だけで私を振り返った。
「守ってやる」
────その、言葉は。